三重県大台町の山深い集落に自然宗佛國寺はあった。一宗一派の文部科学大臣認証の宗教法人である。
もっとも“寺院”の外観は木造3階建ての古びた家屋で、廃業した旅館を利用しているそうだ。ここに一宗を開いたのは、御年85歳の佛國寺黙雷和尚である。
政治に熱心な若者がなぜ、山奥に?
中に通されると、目についたのは安倍晋三元首相の色紙だ。飾っているのではなくて、無造作に置かれている。
「欲しかったらあげるよ。何枚もあるから」。
いやいやいや。そう言われても。しかし、なぜあるのですか。
「向こうから送ってきたんだよ」と言いつつ、さらに安倍氏葬儀の引き出物だという萩焼の湯飲みも見せてくれた。「これもあげる」。
ものを持たない生活を進めたいから、欲しい人に分け与えているのだそうだ。
さらに手紙類も大量にある。安倍氏だけではない。中曽根康弘元首相の署名も多いし、ほかにも多くの政治家、財界人からの書簡があった。
佛國寺を訪れたのは、ここが展開する「森のお墓」、いわゆる樹木葬、森林散骨の取材だったのだが、その前に目を奪われるものが多すぎる。
黙雷和尚は、若いとき中曽根元首相の書生をしていたのだという。もっとも、その前は大日本愛国党の党員だった。浅沼稲二郎社会党委員長の暗殺事件現場にも居合わせたそうだ。もしかしたら、自身が犯人の山口二矢の役割を演じていたかもしれない……という。
経歴を聞くと、大物政治家の名前が次々と登場する。安倍家とのつきあいも長く続いていたそうだ。もちろん現役政治家の名前もたくさん出てくる。
生粋の右翼かと思えば、中学生のときに野坂参三共産党議長に手紙を送って入党を望んだが断られた、なんて逸話が飛び出るし、旧民主党の議員たちとのつきあいもあった。昨今の極端に右傾化した政党や政権、議員にも批判的だ。
そんな和尚が、なぜ、こんな山深い土地にいるのか。
