ドナルド・トランプ米大統領(以下、初出以外敬称および官職名略)は、イラン攻撃の目的を述べて米国民に攻撃の正当性を強調している。しかし、その説明には説得力が欠け、全米レベルでみると米国民はイラン攻撃に否定的だ。
一方、米国民の中でMAGA(米国を再び偉大にする運動に賛同する人々)に絞ってみると、トランプのイラン攻撃および体制転換を強く支持している。米国社会の分断はここでも顕著に現れた。
本稿では、まずトランプのイラン攻撃の目的を軍事的、政治的および個人的目的の3つに分類して考えてみる。また、MAGAはなぜイランへの軍事力の行使を支持するのかについても述べる。さらに、トランプ政権内で、ベネズエラおよびイラン攻撃に消極的であった人物に焦点を当ててみる。それは誰で、なぜなのか――。
3つの目的――「軍事的目的」「政治的目的」「個人的目的」
トランプはイラン攻撃の目的に、①ミサイル能力の破壊、②海軍の壊滅、③核保有能力の阻止、④テロ組織への支援阻止の4つを挙げた。しかし、これらはすべて「軍事的目的」であり、「政治的目的」、即ち、体制転換による傀儡政権の樹立が含まれていない。
当初トランプは、体制転換――非人道的な独裁体制の打破を述べた。ところが、国防総省のピート・ヘグセス長官は、イラン攻撃の目的は「体制転換ではない」と記者団に述べて、不一致が現れて変更したとみられる。もちろん、新政権は最低限親米で、米国の傀儡政権を想定していた。
トランプは、自身のSNS(交流サイト)等で、ベネズエラのデルシー・ロドリゲス暫定大統領を高く評価し、ベネズエラ産原油が米国に輸出されると述べている。彼はイランに対してもベネズエラのシナリオを描いているのだろう。
ベネズエラのシナリオは、以前書いたが、主としてベネズエラからの原油獲得に主眼が置かれており、トランプはノーベル平和賞受賞者のマリア・コリナ・マチャド氏を政権のトップに据えることには興味がなかった。つまり、彼は民主化には全く関心がなかった。
イランでも同様に、トランプは民主化そのものには興味がなく、「実利=原油」を求めている。しかし、ベネズエラのように、トランプのシナリオ通りに進んではいない。最高指導者に選出された故ハメネイ師の息子モジタバ師は、今後も報復とホルムズ海峡の閉鎖を続けると声明を出し、強硬姿勢を崩していない。
この原油獲得に関わる政治的目的は、これに留まるものではない。戦略的石油備蓄の拡大を急ぐ世界最大の原油輸入国である中国に対して、同国が輸入していたイラン産原油とベネズエラ産の原油を抑えて、交渉の際、ディール(取引)のカードに使うという政治的目的もあるのだ。いわゆる親中のイランとベネズエラを攻撃し、中国の影響力を殺ごうとするトランプの心中は、「G2」ではなく「G1」にあるようにみえる。
変化するリーダーシップの質
トランプは、軍事攻撃は予定よりも前倒しで進んでいると繰り返して成功をアピールしているが、これらの政治的目的は達成されていないのが現状である。
トランプ1.0でも、2.0の1年3カ月においても明らかになったことは、価値観に基づいた利益配分が二義的になって、彼は自分と周辺の実利を一義的として利益配分を行っているという政治の変化である。筆者の専門分野で言えば、何に向けて、何によってリードしていくというリーダーシップの問題である。米大統領のリーダーシップの質に変化がみられる。
この文脈で言えば、トランプはイラン産とベネズエラ産の原油を抑えて、自分、一族、側近、献金者および大企業の利益を生むという「個人的目的」を果たすべく、行動しているという一面がある。
また、トランプはTACO(Trump Always Chickens Out:トランプはいつも尻込みして引き下がる)と呼ばれるが、「TA」はともかく、「CO」は違う。彼は、自分の資産および献金者の資産が減ずる状況に直面すると政策を変える。
仮にトランプが、米国内のガソリン価格の高騰を懸念し、それが11月3日の中間選挙の結果に悪影響を及ぼすと判断して、突然、軍事的目的の達成を理由に「勝利宣言」を行ったとしよう。そうなった場合、本来、政治的目的に含まれる「べき」イランにおける民主化を果たせないばかりか、反体制派の民衆を見捨てることになるのだ。
トランプは昨年、イランにおける大規模デモとそれに対する政府の弾圧の際、自身のSNSで彼らに対して「助けに向かっているところだ(HELPS ON ITS WAY)」と「大文字」で打った。反体制派の民衆は、いつまでたっても来ない助けに期待を裏切られて、米国に不信と怒りを抱いた。
軍事的目的と政治的目的の裏には、常にトランプの個人的目的があることに注目しなければならない。たとえ軍事的勝利を手に入れても、彼が一番重視していると思われる個人的目的、即ち、個人の利益獲得という目的を果たせなかったなら、トランプにとっては打撃になる。
これまでのところ、トランプは個人的目的を果たせないまま引き下がることはない。現状では、イラン産原油の権益を得るまでには至っていない。
