2026年1月22日(木)

トランプ2.0

2026年1月22日

 ベネズエラに対して軍事攻撃を実施し、ニコラス・マドゥーロ大統領(以下、初出以外敬称および官職名等略)を拘束したドナルド・トランプ米大統領だが、英誌エコノミストと調査会社ユーガブによる全国共同世論調査によれば、攻撃前と後で支持率(39%対40%)は、わずか1ポイント上がったのみであった。外交で得点を稼ぐことができず、支持率アップの期待は空振りに終わったが、エプスタイン問題と物価高および住宅費高騰等の国内問題はメディアから消えた。この点では効果があった。

 トランプは今年11月3日(現地時間、以下同)、中間選挙を迎える。そこで、今回のベネズエラへの軍事侵攻とグリーランド領有の意欲が、中間選挙にどのような影響を与えるのか考えてみる。

(diane555/gettyimages)

MAGAとベネズエラ

 トランプがベネズエラを標的にしたのは、昨年末からではない。2024年米大統領選挙において、トランプは西部コロラド州オーロラのベネズエラのギャング組織が関与したとみられた殺人事件を頻繁に取り上げて、事件は同国からの犯罪者によるものだと断定した。そのうえで、激戦州でのトランプ集会に参加したMAGA(米国を再び偉大にする運動に賛同する人々)に、ベネズエラ政府がギャングや犯罪者を米国に送り込んでいると繰り返し訴えた。

 このようにベネズエラに対する否定的な印象を植え付けた後に、米国に流入する麻薬の96%は海路から来ると強い口調で述べた。こうした入念なレールを敷いた後、年明け早々、ベネズエラに対して軍事攻撃を行った。

 トランプと袂を分かった元MAGAのマージョリ―・テーラー・グリーン元下院議員によれば、現在米国社会で問題になっている合成麻薬フェンタニルは陸路から流入する。グリーンのこの主張は、MAGAには何のインパクトも与えなかった。ベネズエラに対する軍事力行使は、麻薬と犯罪者の米国への流入を防ぐためであるというトランプの“大義”は、MAGAに浸透している。

 マドゥーロ拘束後に行ったエコノミストとユーガブの全国共同世論調査(2026年1月9~12日実施)の結果をみてみよう。同調査によれば、ベネズエラに対するトランプ政権の軍事力行使の理由について聞いたところ、米国民は1位に「石油アクセス」、2位に「腐敗したリーダーの排除」、3位に「麻薬密輸の阻止」を挙げた。ところが、2024年米大統領選挙でトランプに投票した有権者に限ってみると、1位は「麻薬密輸の阻止」になり、2位は「腐敗したリーダーの排除」、「石油アクセス」は3位に落ちる。

 2024年米大統領選挙でトランプに投票した全ての有権者がMAGAとは言えないが、その大半をMAGA支持者とみるならば、彼らはトランプの軍事力行使の目的が、ベネズエラの「石油アクセス」よりも「麻薬密輸の阻止」にあるとみており、米国民一般の多数派との間に認識の差が存在する。MAGAはトランプが麻薬密輸の阻止を口実にして、ベネズエラの石油掌握を狙ったとはみていないのだ。

 また、同調査で米国民一般は「国内の争点から米国民の目を逸らせる」を4位に挙げたが、MAGAの間ではこの理由は8位に留まった。ここでも米国民とMAGAの間で認識の差が明白に出た。

 さらに、個別の議員も異例の声明を出している。殊に、元中央情報局(CIA)職員でイラク戦争を経験した退役軍人エリッサ・スロットキン上院議員(民主党・中西部ミシガン州)は、トランプのベネズエラ侵攻を「物価高や住宅費高騰から米国民の目を逸らすため」と述べ、「トランプ大統領は国内問題について触れたくないのだ。国内問題について無計画であるからだ」と強く非難した。

 上述のように、「麻薬密輸の阻止」および「米国民の目を逸らす」ためという理由については、米国民一般とMAGAの間に認識の差がみられたが、両者に共通点もあった。それは、両者共に「民主主義の促進」を下位にランク付けしたことである。米国民一般もMAGAも、トランプがベネズエラにおける民主主義の復活に重点をおいているとはみていないのだ。

 石油アクセスが最優先であるのは、トランプがデルシー・ロドリゲス副大統領兼石油相を暫定大統領にして、民主主義の促進派でノーベル平和賞受賞者でもあるマリア・コリア・マチャド氏を政権のトップに据えなかったことからも明白である。

 トランプは意のままにベネズエラを運営したいようだが、米クイニピアック大学(東部コネチカット州)の全国世論調査(2026年1月8~12日実施)では、米国によるベネズエラの運営に関して米国民一般は、35%が「賛成」、57%が「反対」、8%が「分からない」と回答し、「反対」が「賛成」を22ポイントも上回った。トランプは、ベネズエラ政策で米国民一般から支持を得られていない。


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