2026年2月17日(火)

トランプ2.0

2026年2月17日

 「大国に迎合しても安全は買えない」――。米国のトランプ大統領の常軌を逸する強権発動や脅しに国際社会がひるむ中、隣国の指導者として敢然と立ち向かうカナダのマーク・カーニー首相の言動に内外で大きな反響と賛辞が寄せられている。

(ロイター/アフロ)

世界に衝撃を与えたダボス会議での演説

 カーニー氏については、対米融和姿勢だったジャスティン・トルドー前首相と異なり、首相就任前から、トランプ政権とどう向き合うかが注目されてきた。昨年3月9日、カナダ与党・自由党の党首選挙でカーニー氏が得票率85%の圧倒的勝利で党首に就任した当初から、トランプ氏を「カナダに対する脅威」だとして、「彼を成功させてはならない」と述べるなど、米国に対する対抗姿勢を鮮明にしていたからだ。

 その後、首相に就任してからも、真っ先に英仏両国を訪問、スターマー首相、マクロン大統領との首脳会談に臨んだものの、首都オタワから指呼の距離のワシントン訪問は2カ月後に先送りし、ホワイトハウスでの首脳会談では、トランプ大統領がカナダについて「51番目の州」になる可能性に触れると、「カナダは売り物ではない」と言下に切り返した。

 そして、カーニー首相の“真骨頂”が発揮されたのが、去る1月20日、スイス・ダボスの「世界経済フォーラム」年次総会で行った堂々たる基調演説だった。

 同首相は集まった各国首脳、経済界リーダーたちを前に「私は、世界秩序の断絶、美しい物語の終焉、そして大国間の地政学が一切の制約を受けない残酷な現実の始まりについて話したい」と前置きした上で、要旨、次のように述べた:

 「私たちのようなミドルパワー(中堅国家)の間では今日、これまでのような国際秩序を破壊する大国の競争激化に直面して、なるべく波風立てず、迎合し、トラブルを起こさず、従順さを示すことで安全を買おうとする傾向が出てきています。しかし、そうであってはなりません。これらの国々は人権尊重、持続可能な開発、連帯、主権、領土の一体性といった、私たちの価値観を体現する新たな秩序を構築する能力を持っているのです」

「長年、カナダのような国々は『ルールに基づく国際秩序』の下で繁栄してきました。私たちはその制度に参加し、理念を称え、予測可能性の恩恵を受けてきた。しかし、私たちは、この物語が部分的な虚構であることも知っていました。最強国(注:米国)は都合が悪くなれば自らを例外とし、貿易ルールも非対称的に適用するという現実なのです」

「率直に言います。私たちはこれまでのグローバル体制からの『移行期』ではなく、秩序が破壊された『現状』との断絶のただ中にいます。そして大国は、閉鎖的な経済的統合そのものを武器として使い始めた。一方で、世界貿易機構(WTO)、国連など、中堅国が頼って来た多国間機関は、大きく力を失っています。しかし、だからと言って、各国が要塞化した世界は、より貧しく、もろく、持続不可能になる。そして大国が、ルールや価値の『建前』さえも捨て、利害の最大化に走れば、取引主義から生まれる利益も限界を迎える。覇権国は、永遠に関係性を収益化することはできません」

「大国によって破壊されつつある旧秩序は戻りません。現実を嘆く必要もありません。そしてノスタルジーは戦略ではありません。しかし、私たちはこの亀裂から、より良く、より強く、より公正なものを築くことはできる。強者には強者の力がある。しかし、私たちにも力がある。現実から目を背けるのを止め、国内の力を蓄え、共に行動する力です。私たちはこの道を、公然と、自信をもって選びます」

 カーニー首相は上記のような演説で、国境を接する米国を直接名指しで批判することはしなかったが、「都合が悪くなれば、自らを例外とし、貿易ルールも非対称的に運用する『最強国』」「大国によって破壊されつつある旧秩序」など、婉曲的な表現ながら、トランプ政権の外交・通商政策を痛烈に糾弾したことは誰の目に明らかだった。


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