そして、自国を含む「中堅国」に対し、「なるべく波風立てず、迎合し、従順さを示すことで安全を買う」ことをせず、「目を開いたまま、戦略的に、幅広く世界と関わっていき、対外関係も多極化させるべき」ことを力強く訴えた。
平たくいえば、同じ北大西洋条約機構(NATO)の盟主でもある米国との関係は堅持しつつ、独自に多国間の関係を強化すべきことを切々と説いたものだった。
様々な演説の反響
カーニー演説は、各国でも大きな反響を呼び起こした。
ダボスの演説会場に居合わせたアレクザンダー・スチューブ・フィンランド大統領は「素晴らしいスピーチだった。世界秩序の変化を見事に分析したものであり、まさに我々が直面する新たな国際関係の均衡について教えられた。現実主義に基づいた新たなカナダ外交の指針を示しており、今年のダボス会議登壇者の中でも秀逸だった」と絶賛した。
マーク・ルッテNATO事務総長は「彼を大いに尊敬したい。演説はカナダ独自の価値観と世界に対する貢献の重要性を力説したものであり、その姿勢はNATOとの関係においても、カナダがよみがえったことを示している」と好意的に評価した。
同じくダボス会議に出席していた米カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事も「私は個人的に、会議に参列した米国各界のリーダーたちから『トランプの脳裏を直撃する内容だった』とのコメントをもらった」とした上で、「勇気と確信をもって自分の信念を語ったカーニー首相に敬意を表したい。われわれは今こそ、米国で立ち上がり、何が求められているか明確な指針を出すべきだ」と語った。
一方、ダボス会議に参加したトランプ大統領だけは、翌21日に登壇し「カナダが今日あるのは米国のおかげだ。まるでただ乗りだ。カーニーはもっとわれわれに感謝すべきだ。彼の演説をビデオで見たが、感謝はまるでなかった」などとして、「不快感」をあらわにした。
しかし、同月26日には、大統領の方から帰国したばかりのカーニー首相に電話を入れ、首相によると、「二人は、北国圏安全保障からウクライナおよびベネズエラ問題などについて、とても良い雰囲気で話し合った」という。
さらに同首相は、電話会談に関連して、「ダボスでの演説から後退した釈明をしたのか」との記者団からの質問に対し、「NOだ」ときっぱり否定した上、「わが国と米国は経済、安全保障、文化交流に至るまで良好な関係を維持している。しかし、カナダは米国ゆえに存在しているのではない。カナダは我々がカナダ国民であるからこそ繁栄しているのだ」と強調した。
譲らない姿勢
上記のようなカーニー首相の毅然たる態度は、自国が安全保障面はもちろん、経済分野でも米国に大きく依存している現状を鑑みるにつけ、特記すべきものがある。
例えば、両国間の貿易関係だけを見ても、カナダの輸出の約78%、輸入の約50%が米国向けであり、カナダにとって米国は圧倒的な取引相手国となっている。米国の景気変動はカナダに直接的影響を与えるほか、カナダにとっては米国に依存する石油輸入の将来に対する不安もぬぐい切れない。
