安全保障面でも、両国は、北米防空司令部(NORAD)の共同運営、NATOを通じ、極めて緊密な関係を維持してきた。
しかし、カーニー首相は米国一辺倒からの脱却を目指し、緊密な関係を今後もできるだけ維持した上で、EUとの安保協定を締結するなど、防衛面での多角化をめざしている。
カーニー氏は自国の国益擁護のみならず、トランプ大統領がデンマーク領グリーンランド買収に触手を動かした際にも、デンマークによる領土保全の重要性を力説してきた。そればかりか、今月6日には、カナダ政府がグリーンランドの主要都市ヌークに同国領事館を新設したことを明らかにした。領事館にカナダ人外交官が常駐することで、揺るぎないデンマーク領であることを明確に後押ししたことを意味する。
これは明らかに、トランプ氏への公然たる異議申し立てであり、デンマークへの支持と関係強化の必要性を言葉だけでなく、身をもって態度で示した形となった。
カーニー首相が持つ〝力〟
では、その自信の背景に、何があるのか。
カーニー氏は、米ハーバード大学で経済学学士号、英オックスフォード大学で同修士号取得後、大手投資会社ゴールドマン・サックスのロンドン、東京、ニューヨーク、トロントのオフィスで実業界のビジネス・キャリアを着々と積み上げ、頭角を現した。その実力はカナダ政府の高級官僚の間でも評判となり、2003年にカナダ中央銀行副総裁、04年に上級副大臣に就任、そして、08年には、カナダ中央銀行総裁に任命された。
さらに、同銀行の任期は8年だったが、途中の12年に、公募による選定でイングランド銀行総裁に抜擢された。とくに、オーストラリア、ニュージーランド、インド、エジプト、南アフリカなど、旧英国領にポンドを通じ幅広い影響力を持つイングランド銀行総裁に、しかも外国人として初めて就任したことで、その名は、国際金融界でも一躍、脚光を浴びることになった。
政界入りを果たすまで政治経験はなかったが、19年にアントニオ・グテレス国連事務総長の任命により、気候変動問題担当特使、翌年には、ボリス・ジョンソン英国首相(当時)の要請により、「第26回気候変動枠組み条約締結国会議(COP26)」の金融顧問も務めている。
相手が超大国の大統領であれ、冷静に主張すべきは主張し、理路整然と筋を通すその姿勢は、こうしたこれまでの輝かしい学歴と、妥協を許さない厳しい国際金融界でのずば抜けた実績に裏付けられてきたものだろう。
相手次第で主張や政策を頻繁に引っ込めたりする傾向が目立つことから、「TACO」(Trump Always Chicken Out)の“異名”がマスコミ界に広がったトランプ大統領と、信念を貫き通すカーニー首相との対比は、今年のダボス会議の最大のハイライトとなったと言っても過言ではない。
現に、分が悪いと見たトランプ氏は、グリーンランド買収構想開陳に続き、一時、強い関心を示した「カナダ併合」発言をその後は封印したままになっている。
