トランプ政権が国際刑事裁判所(ICC)の赤根智子所長判事を制裁対象に指定した。制裁は実行され、米銀の口座やテック系のアカウントが凍結されるなど、赤根氏への圧力は目に見えるものとなっている。
この問題だが、アメリカ保守が伝統的に持っている孤立主義が具体的な形を取ったと言えるのは間違いない。その結果として、法の支配という国際社会における貴重な価値観が揺さぶられているわけであり、決して軽視していい問題ではない。
そうではあるのだが、現時点での日本政府の対応は必要十分であり、このまま推移を注視しながら、まずは2027年に赤根氏が無事に任期を全うするように冷静に対処してゆくのが良いと考えられる。反対に、政府の公式見解として正規の外交ルートを使って、米国に対して制裁解除を求めていくのは、日米双方を不幸にするだけでなく、赤根氏を守ってゆくということでも最適解ではないと思われる。
世界にとってのICC
理由の第一は、ICCが03年に設立された比較的新しい国際裁判所であり、まだその存在は国際社会で100%確立したものではないということだ。仮に、今回の制裁という攻撃が、国際司法裁判所(ICJ、責任者は岩沢雄司所長判事)に対するものであり、米国の意図がICJの破壊を目指すものであれば、これは大変である。
ICJは設立は45年と、やや早いが紛れもなくサンフランシスコ体制の一翼を担う機関だ。つまり国際連合の設立、日米安保条約、日本の再独立とセットになっており、世界と日本における「戦後体制」の要である。
このICJがいわば国家による国際法違反を裁く裁判所であるのなら、ICCは国際法に違反した個人を裁くという機能を分担している。この両者は相互に補完関係にあるが、ICCの場合はアメリカ、中国、ロシアという国連安保理の常任理事国3カ国が未加盟であるなど、今はまだ組織がための時期とも言える。
アメリカに関しては、歴代の共和党政権がICCに冷淡であっただけでなく、ICC設立の根拠となったローマ条約の審議においては、民主党のビル・クリントン政権も決して積極的ではなかったという歴史がある。
仮にトランプ政権がICJを壊しにかかったのであれば、それは直ちに日米安保と国連中心主義の危機につながる。したがって、欧州諸国などと連携して相当な覚悟で阻止に動く必要が出てくる。その一方でICCについては、まだまだ発展途上であり、設立当初から冷淡であった米国をいつの日か参加させるためにも、今は正面切った喧嘩をする時期ではないという考え方もできる。
