政府同士の舌戦
2番目は、トランプ政権の事情である。そもそも、ICCとICJの違いであるとか、あるいは国際法などという概念は、かなりのニュース好きでなければ全く関心のないものだ。いくら、11月に中間選挙があり、政権が弾劾を回避するために、自派系の候補を1人でも多く当選させたいと思っていても、ICCの赤根氏の制裁といった「難しい話題」は、保守ポピュリズムの観点からは効果はほぼないと言えるだろう。
したがって、赤根所長への制裁というニュースは、一部の高級紙が伝えただけで、地上波に当たる三大ネットワークのニュースなどでは全く扱われていない。赤根氏を守るにはこのような静かな状態を続けるのが得策である。
せっかくポピュリズムには馴染まない「難しいニュース」の範囲内で事態が推移しているのに、政府同士の舌戦になれば、それはポピュリズムに受けるような「過激化」を進めることになり、ICCを守るにも、日本の国益にも逆効果となる。
なぜ、今、制裁したのか?
3点目は、時期と動機の問題である。では、どうしてこの時期にこのような強い措置である個人への制裁が発動されたのかというと、大きく分けて2つあると考えられる。
直近の問題としては、水面下でトランプ政権が動いているというウクライナ和平が関係している可能性がある。ICCはロシアのプーチン大統領に対して逮捕状を出しており、仮にプーチン氏がICC加盟国の領土に立ち入った場合は当該国には同氏を逮捕する義務が生じる。
仮に和平の条件として、プーチン氏が本人の安全と免責を条件にしてきた場合、そしてアメリカがこれを受け入れて別の条件とともにウクライナを説得にかかった場合、ICCの逮捕状というのはある種の障害として浮上してしまう。また、今後、ウクライナとロシアの首脳間での直接交渉が、仮にアメリカの仲介で計画されるにしても、ICC加盟国は地理的に避けなくてはならなくなる。
そうした直近の問題が絡む中で、アメリカの現政権が実務的にICCを敵視するということはありうる。最近のトランプ大統領は、必ずしもロシアの利害に引きずられてはいないが、和平を実現して国内外にアピールするという意欲は強いものがあるようだ。そんな中で、現在進行形の問題として、ICCが邪魔だという見解を持つ動機はある。
もう一つは、この赤根氏への制裁を行ったのがアメリカの外交当局であり、その責任者がルビオ国務長官だということだ。ルビオ氏は、2028年の大統領選では、ヴァンス副大統領と並んで共和党の有力候補だと言われている。
仮にそうだとして、トランプ氏は100%の信頼を与えているのかというと、これは分からない。というのは、現政権が任期を終えた以降も、政権関係者、支持者、大統領の家族に関する法的な問題が続くからだ。
