2026年7月30日(木)

台湾「麗しの島」の実像

2026年7月30日

 5月中旬の米中首脳会談が行われた直後に、米国ワシントンと台湾を相次いで訪問する機会を得た。両地で受けた最も強い印象は、台湾有事に対する認識の変化と、その底流にある米中の軍事バランスをめぐる静かな緊張であった。

米国製の戦車で実弾演習をする台湾軍。台湾への武器売却などに対して中国はどう動いていくのか……(ANADOLU/GETTYIMAGES)

 東アジアにおいて、米中の軍事バランスはもはや圧倒的な米国優位とは言えず、ほぼ互角の水準に迫りつつある。ワシントンの安全保障コミュニティーでは、台湾有事を「いつか起きるかもしれない仮想の危機」としてではなく、向こう数年の現実的なシナリオとして織り込む議論が定着しつつある。ただし、その時間軸の読み方には変化が見られた。2026年3月に米国家情報長官室が公表した年次脅威評価は、中国指導部が現時点で27年の台湾侵攻計画を持たず、固定したタイムラインも存在しないと明示した。長く安保論議を支配してきた「2027年台湾有事」説は、米情報当局によって否定されたことになる。

 だが、ワシントンの有識者が指摘したのは、中国から見れば「トランプは御しやすい相手」だという認識である。取引を好み、同盟へのコミットメントに揺らぎを見せる米大統領を前に、中国があえてリスクを冒して具体的な軍事行動に踏み切る動機は乏しい。少なくともトランプ政権下、すなわち29年1月までは、北京は性急な賭けには出ないだろう、という見立てがワシントンのシンクタンク業界では共有され始めている。むしろ、中国は台湾への武器売却を停止させるなど、米国に台湾から手を引かせることに注力するとみられている。

 問題は「トランプ後」にある。米国はイランに対する軍事攻撃で、ミサイルや防空システムの迎撃弾を相当量消耗した。弾薬・装備の在庫は水準を下回りつつあり、これを回復するには「年単位」の時間を要する。生産ラインの拡張も一朝一夕には進まない。その空白の期間に、中国は着実に軍事力の増強を続ける。今後数年間、米国が即応能力の回復に取り組む間に、通常戦力レベルで中国が米国を追い越し、核戦力で肩を並べる可能性は否定できない。互角から、局地的には優位への転換点が30年以降に訪れかねないという危うさを、ワシントンの空気は静かに伝えていた。


新着記事

»もっと見る