タイムリミットは5年後?
日本に必要な社会の強靱性
台湾が直面する最大の課題は人口減少である。台湾の出生数は日本を下回り、合計特殊出生率は韓国に次ぐ世界最低水準にある。現代戦の主役はドローンに移りつつあるとはいえ、それを操作し、判断し、戦うのはあくまで人間だ。「少子化が国家の安全保障に直結する」という現実は、同じく人口減少に直面する日本にとっても深刻な課題である。兵器を高度化しても、それを担う人がいなければ防衛は成り立たない。
そして見落としてはならないのは、脅威が必ずしも武力侵攻の形をとるとは限らないことだ。先にふれた米国家情報長官室の年次脅威評価は、警戒すべきは、法律戦、認知戦、経済的圧力、そして台湾自身の政治的機能不全を通じた「武力によらない併合」だ。台湾の国家安全保障局は、24年に中国発のフェイクニュースや偏向情報が前年比6割増えたと報告している。先の国防予算をめぐる与野党対立も、こうした情報環境の中で起きていることを忘れてはならない。
日本と台湾、米国は、「両岸関係をどう維持するのか」という極めて重要な課題を共有する。米台が緊張感をもってこの問いに向き合っている時、日本だけが他人事を決め込むことは許されない。
台湾海峡の安定は、そのまま日本の南西地域の安全、シーレーンと経済の生命線に直結する。
台湾の取り組みで特筆すべきは、戦い方そのものを変革しながら抵抗を続けるウクライナ戦争を教訓に、官民を挙げて軍事能力を高めている点である。スタートアップやNGO、NPOまでもが防衛の生態系に組み込まれ、技術革新の担い手となっている。現代の戦争は「2週間で戦い方が古くなる」とも言われるほど変化が速い。このテンポに追随するには、ハードウェアの整備だけでは足りず、ソフトウェアの不断の更新と、民間の創意を即座に戦力へ転換する柔軟な仕組みこそが鍵を握る。
ここに、日本が学ぶべき最大の教訓がある。「社会の強靭性」とは、自衛隊の装備拡充や防衛産業の活性化にとどまらない。民間の技術、市民の防災意識、有事における社会機能の維持、官民をつなぐ回路、そして何より、対外脅威認識をめぐる国内の合意形成能力そのものが、抑止力の実質を成す。台湾が予算の分断や認知戦に揺らぐ姿は、防衛とは軍だけの仕事ではなく、社会全体の構えであり、その結束そのものが防衛力なのだという現実を、日本に突きつけている。
日本では年末の戦略三文書の改定が進められる中、「新しい戦い方」、「新しい守り方」という概念が議論されている。ドローンの活用が求められていることは間違いないが、それだけで日本を守れるわけではない。中には非核三原則の見直しや原子力潜水艦の導入など、米国の核抑止態勢や自衛隊の人員不足を無視した主張も出始めている。中国の圧倒的な軍事的脅威に加えて、少子化に直面する日本にこのような非現実的な議論をする余裕はないはずである。やはり、市民レベルの関与も含めた社会の強靱性をいかに構築するかを、三文書改定の重要な柱とするべきである。加えて、米国にとって日本が経済的に重要なパートナーであると官民を挙げてアピールする努力も惜しんではならない。
5年後を見据えるならば、準備に残された時間は長くない。米国の即応能力が回復せず、中国の軍事力が追いつきかねないその時期に、日本が社会全体としてどれだけの強靭性を備えていられるか。国家安全保障戦略をはじめとする三文書の見直しも、まさにこの問題意識の下で議論されるべき問題である。台湾の危機感と適応力に、そしてその苦悩にも学び、官民を挙げて備えを進めることが、平穏な日常の下で静かに問われている日本の課題なのである。

