台湾が抱く危機感と
水面下で進む軍事的準備
台湾に身を置くと、ワシントンとはまた異なる、しかしより切迫した感触が伝わってくる。トランプ大統領の台湾への思い入れは、決して厚いとは言えない。台湾への武器売却を中国との「取引の材料」として扱いかねないリスクを、台湾側は痛いほど自覚している。だからこそ、台湾は今、最大限の危機感をもって軍の訓練を強化し、即応体制を高めている。米国の関与が揺らぐ前提に立って自らの備えを固めるという姿勢は、皮肉にも台湾の自立した防衛意識を一段と研ぎ澄ませている。
政府・軍の危機感の高さと、市井の人々の平穏さとの対照も印象的だった。街を歩けば、市民は戦争の脅威など感じさせない穏やかな日常を送っている。だがそれは危機の不在を意味しない。台湾にはそもそも徴兵制があり、多くの建物には防空シェルターが当然のように整備されている。有事への備えが社会の基層に組み込まれているからこそ、人々はことさら身構えずに過ごせるのだ。
台湾は、戦争や大規模災害といった複合的危機に対処するため、国家を挙げて「全社会防衛レジリエンス」の構築を強力に推進している。民間訓練、インフラ防護、情報通信の確保など5つの柱を掲げ、軍民一体となって社会全体の強靱性(レジリエンス)を高める国家戦略を展開しているのだ。
ただし、この危機感はあくまで政府・軍のものであって、台湾社会が一枚岩なわけではない。象徴的なのが国防予算をめぐる攻防である。頼清徳政権は26年から8年間で計1兆2500億台湾ドルの特別国防予算案を掲げ、防衛費をGDP比5%まで引き上げる方針を打ち出した。しかし対中融和的な最大野党・国民党と第二野党・民衆党が立法院で過半数を占め、「内容が不透明だ」として審議を阻んだ。結果、本年5月に可決された予算は政府案の約3分の2、7800億台湾ドルに削られた。
この動きをめぐって、米上院が台湾の野党を名指しで批判するという異例の事態まで生じている。脅威認識をめぐる国内の亀裂は、台湾が抱える脆弱性である。
また、米国が経済的利害を重視した外交を行う中、台湾は自らの価値について揺るがぬ自信を見せた。先端半導体の製造拠点を米国に設けることで「シリコンの盾」が失われるのではという懸念はある。製造能力が国外に移れば、世界が台湾の安全に利害を持つ理由が薄れるという論理だ。だが台湾側の受け止めは異なる。先端半導体を実際に量産しうる製造力とそれを支える人材が米国に容易に追い抜かれることはないと彼らは確信している。装置を移すことと、それを動かす技術と人を移すことは別物だからである。台湾は米国にとっての自らの不可欠性が失われないようにたゆまぬ努力をしている。

