ドナルド・トランプ米大統領(以下、初出以外敬称および官職名略)は6月17日、フランスのヴェルサイユ宮殿で、米・イラン戦争の戦闘終結に向けた覚書に署名した。覚書は「Memorandum of Understanding(MOU)」と呼ばれ、「了解覚書」ないし「基本合意書」と訳される。しかし、今回の覚書は、一部の米メディアから「Memorandum of Misunderstanding(MOM)」と揶揄されている。「誤解の覚書」と言うのだ。
覚書において、米国側はレバノンの領土保全や主権、海上封鎖の解除並びにイラン復興基金の創設などに関して明確な約束をイラン側にしているのに対して、イラン側の米国側に対する確実な約束はあまりなされていない。注目されたイランの核開発計画については先送りされ、パキスタンとカタールの仲介により、6月21日からスイスで始まった米国とイランの協議の中で扱われることになった。
以下では、60日間の最終合意を目指した米国とイランの協議において、何がポイントになるのか、どのような要素が最終的にイラン側を動かすのか、今回の覚書合意と協議の中間選挙への影響について考えてみる。
長期的志向VS.短期的志向
交換留学生(オーストラリア、フィンランド、フランス、ノルウェー、タイ、チュニジア)を含めたゼミ生と5月20日、ペイマン・サアダト駐日イラン大使を対象に、大使公邸でホルムズ海峡開放の可能性およびイランの核兵器開発などに関してヒアリング調査を実施した。偶然にも、イラン系の留学生や大使の初任地であったフィンランドの留学生が参加していたため、話が弾み、雑談などを交えてヒアリングは約2時間15分に及んだ。言語は英語を使用した。なお、駐日米国大使館とパキスタン大使館にも連絡をとったが回答を得ることができなかった(6月21日時点)。
大使は、大使館に展示されているペルシャ陶器、楽器、絵画や絨毯などについて説明し、ペルシャの伝統的な打楽器をゼミ生にたたかせてくれた。現在のイランを中心に存在したペルシャ帝国は、紀元前550年の建国である。その長い歴史と文化に対するイラン国民の誇り、「今年建国250周年を迎える国とは違う」というプライドが伝わってきた。
「長期志向」で交渉を行うイラン側に対して、ディール(取引)を通じて、即座に結果を求める「短期志向」のトランプ。その背景には、異なった時間に対するアプローチが存在するのかもしれない。実際、異文化交渉の分野では、米国の交渉は短期志向であると言われている。
戦争と「劇場」作り
今回の覚書合意の背景にはトランプが、7月4日の建国250周年の歴史的記念日までに、イランに対して大幅な譲歩をしてでも、停戦の延長を欲していた事情があるだろう。彼に、制限時間、即ちタイムリミットが刻々と迫っていたからだ。
この記念日にイランと戦闘状態にあれば、米・イラン戦争に対する米国民の批判や不満はさらに高まり、支持率低下に拍車がかかる。その一方で、トランプは自分の誕生日(6月14日)やイベントに合わせて合意を打ち出し、戦争においてさえも、「劇場」を作り、華々しい「トランプ劇」を演出しているのである。
60日間における交渉のポイントは、米国側とイラン側の協議時間、殊にトランプが直面しているタイムリミットになるだろう。
米国側の首席交渉者を務めるJ・D・バンス副米大統領は、ホワイトハウスでの記者会見で、60日間の停戦合意は、公式に6月18日から始まると述べた。ということは、8月16日が協議の最終日になる。覚書にはイランと米国の双方の合意により停戦の延長が可能であると明記されている。仮に30日間延長した場合、9月15日が新たな協議の期限になる。
