2026年7月25日(土)

新しい〝付加価値〟最前線

2026年7月25日

 4大家電として「テレビ」「冷蔵庫」「洗濯機」「エアコン」が挙げられ、日本の総合家電メーカーが世界一と讃えられた時代があった。が、その中のテレビはご承知の通り、中国メーカーの傘下に入った。また、冷蔵庫、洗濯機の様に昔からある家電も、今の世界シェアトップは中国だ。

 ではエアコンは、どうだろうか。実は「テレビ」「冷蔵庫」「洗濯機」より、長期、そして広いエリアでビジネスできる可能性がある。このため、日本メーカーでエアコン技術を持つメーカーは、エアコン=ヒートポンプを中心に、家電事業の再構築を行っている。今回は、その動きをパナソニックを中心に世界的視野でレポートする。

熱波で死者1万人か、思惑が外れた欧州

 元々欧州は一部のエリアを除き、夏でも爽やかで、過ごしやすい。北緯でいうと、パリ48.9度、ベルリン52.5度、ローマ41.9度、マドリッド40.4度。一番南のマドリッドでも、日本の仙台当たり。パリですら宗谷岬より北にある。欧州は元々、エアコンの不要なエリアといえる。

 その欧州が、ここ数年酷暑にさらされている。日本では、1993年の夏から異常な暑さになったが、その時、エアコンの普及率は72.3%。10年後の03年で88.8%。100%に達しないのは、北海道があるからだ。

 欧州では冷房の普及率は20%。イタリア・スペインが50%、フランス25%、ドイツ3%と、ほぼ緯度順に並ぶ。

 エアコンが普及しないのはいくつかの事情がある。まず環境を守る意識がすごく強い。CO2、温暖化ガスゼロ化を前倒しで目指している。このため再生可能エネルギーの導入、電気自動車へのチェンジを積極的に行っている。

 またエアコン冷媒にも厳しい。もともと冷媒には、CFC(クロロフルオロカーボン)、HCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)などフロン類ガスが用いられていた。不燃で、安定度が高いためだ。だが、CO2の数百倍〜数千倍の温室効果を持つため、CFCはモントリオール議定書で、HCFCは2020年に廃止が決まった。

 今使われている冷媒は、R32(HFC系冷媒、ジフルオロメタン)、R410A(R32とR125を半分ずつ混ぜた疑似共沸混合冷媒)で、オゾン層の破壊はないが、 R410Aは地球温暖化係数が高い問題を持つ。最も良いのは自然を傷つけることのない自然冷媒。パナソニックをはじめ、日本メーカーはこぞって追求している。

 これに加えて電力事情がある。欧州は電気代が変動性。「ユーロニュースによると、ドイツの卸電力価格は正午の1メガワット時86ユーロ(約1万5000円)から、午後8時に566ユーロ(約10万円)へ上がった」(『日本は原発を手放さなくてよかった…41.8℃熱波で電力価格が一時6.6倍、エアコン不足に苦しむドイツの末路』プレジデントオンライン)という。卸電力なので、正確な影響を数字で出せないが、電気代がいきなり6倍に上がるのはごめん被りたい。

 電力総需も問題。日本で休みなくエアコンが稼働し続けられるのは、電力供給にピーク負荷設計を採用しているからだ。例えば、100GWの総需に対し、130GWの発電施設という具合だ。

 欧州は、一番エネルギーを使う暖房を石炭、ガスで賄うことが多い。だが、CO2 ゼロ化と言われた今、それらを電気に変える必要があり、まだこれは進行形。エアコンが増えると停電の可能性もある。こんな時、フランスの原発(全電力の70%)などは有利に思えるが、冷却水の問題がある。酷暑にもなると川の水温が上がり、冷却水として使えなくなる。実際原発を一時ストップさせているという。

 次はエアコンの設置。欧州は、歴史的な街並みが続くものが多い。欧州の人たちは、少々便利なことより、こう行った街並みを大切にする。当然室外機は、NG。今、欧州で売れまくっているエアコンは、窓から暖気を出す「移動式クーラー」。大量に売っているのは、中国メーカーだ。移動式のエアコンを日本メーカーはほとんど作っていない。それは日本メーカーが見ているところが違うからだ。

 例えば、パナソニック。チェコに工場を持つ。ここで作っているのは、同じヒートポンプ製品のエコキュートだ。

 理由は2つ。欧州は地下にボイラーを設け、その「温水」で部屋を温める。昔、石炭、今はガスだがCO2 ゼロ化となると電気にしたい。そこへパナソニックが名乗りを上げたわけだ。

 またEUは「REPowerEU」などの政策で、ヒートポンプを建物部門の脱炭素化の中核技術として位置付け、補助金や税制優遇で導入を後押ししている。国の補助は大きい。

マスター工場パナソニック草津拠点

工場で生産されているエアコン「エオリア」の室内機。前に突き出し、奥行きがあるのは、省エネモデルの証

 パナソニックのエアコンは、日本では滋賀県の草津拠点で作られている。琵琶湖東岸、近くに安土城跡がある。この拠点はパナソニックのヒートポンプ製品の日本のマスター工場だ。エアコン、エコキュートなど、ヒートポンプを使う製品の生産を行い、研究所も併設されている。

 工場見学できるというので、滋賀まで見に行ってきた。研究所は5階建ての新築。そこに最新設備が入れてある。多くの場合、開発は、設備、建屋、試験材料費、人件費と予算を振り分ける。特に専用測定器は研究に不可欠である上、高価な機材が多い。

 ということで、全部を満たす予算は大手メーカーもない。このため多く場合、新しい研究棟というのはなかなかお目にかからない。パナソニックがこの研究所を作ったのは、研究効率をあげるため。ヒートポンプの未来に投資したわけだ。開発メンバーを集結、いろいろなテストができるようにし、自由な発想で開発を進めるのが目的だ。

 見学したのは、動作音を測定するための「無響室」、部屋の暖まり方をチェックするための「住環境試験室」だった。無響室は、エアコンの動作音確認をする部屋。響きを抑えるため、壁が特殊な構造をしており、写真映えもする。皆さんも見たことがあるだろう。

住環境実験室。天井から垂れ下がるケーブルに、無数のセンサーが付けられている。 (下)実験室の外から西陽を入れる。ナイター設備に似る

 一方の住環境試験室は、大きな部屋に無数の温度センサーを配置、エアコンの効きをテストする。温度センサーの配置は立体。当然と言えば当然だが、実際に見ると、迫力がある。そして窓の外には野球場にある照明の小型版が置いてある。これは、西陽がさした時の温度変化のシミュレーション。照明と書いたが、光量でなく熱量が問題になる。

 その他「落差試験室」「落下振動傾斜衝撃」「制御実験室」「EMC(電磁両立性:周囲に電磁的な妨害を与えず、かつ周囲からの電磁的な干渉を受けても正常に動作できること)」「大能力サイクロ」「新性能評価エミュレータサイクロ」などがあるが、ほとんどの部屋が新型の自然冷媒(R290)を扱える仕様になっている。

 自然冷媒が導入できると、他メーカーに対し、技術ストッパーになるし、フロンガスに神経質な欧州などでは指名買いされるかもしれない。

 続いて、工場見学。特徴は道を挟んで2棟2階接続の建屋で作られることだ。製造機器は重く、精度が必要な機械が多い。このため、どんな時にでも安定した場所に設置することがセオリーだ。要するに土地が安く、無制限に手に入るなら1棟1階前提が普通だ。外に出しパーツを移動させるということは、集積場所、包装材料、手間が必要になる。同じ建屋内だと、手間も最小で済む。

(上)射出成形機。熱で柔らかくなった樹脂を金型に流しこみ、高圧で整形する。 (下)使用されている樹脂ペレットと成形サンプル。再生樹脂ペレットも使われている

 しかし日本は狭く、土地も安くない。加えてヒートポンプ製品を集約して作るなら、動線は短い方がよい。要するに集約的に作る方を優先させたわけだ。エアコンで2棟と書いたが、内、1棟はエコキュートも作っている。まずレイアウトが上手い。棟を渡るのは軽い樹脂パーツ。隣の建屋から、休みなく供給されてくる。つながっているのは2階だ。溜めてバッチ毎運ぶ手もあるが、キズを含め注意すべきことが山ほどある。

 次に感じたのは、1つ1つの工程はあまり長くないのだなということ。今がベストの状態なのだろうかと思ったところへ、「まだ自動化は25%程度。50%近くまで上げます」との声。

 量産だけ考えると、人件費の関係で海外の方が有利なことが多い。国内でも同様にしようとすると、自動化は不可欠だが、その分、ラインを変えることができなくなる。また、中国・韓国などはカントリー・リスクがある。また知的財産管理という眼で見ると、日本、欧米ほど、意識が高くない。

 特にエアコンの効率は、日本が国を上げて追求してきた技術。世界各国が欲しがっている。草津拠点は、パナソニック最重要拠点の1つだ。

(上)隣の建屋から送られてくる白い樹脂パーツ。(下)組み立てライン。今後、自動化を進めるとのこと

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