2025年12月5日(金)

新しい〝付加価値〟最前線

2025年11月11日

 キッチン家電。自炊する人なら、かなりの種類を持っているのではないだろうか。あまり自炊しない人でも、「冷蔵庫」「炊飯器」「オーブントースター」「(オーブン)電子レンジ」の4種類を持つ人は多い。炊飯器は米、オーブントースターは食パン、電子レンジは外で買ってくるおかずのためだ。

 これにガスコンロもしくは電気コンロ、そして深鍋、もしくはフライパンがあれば、かなりの種類の料理ができる。しかも、令和は共働きが当たり前の時代。しかも賃金は上がらずに、物価が上がる。先行きの不安は募るばかり。そうなった時の自衛策の1つで自炊は必ず出てくる。外食より格安だからだ。ただ条件がある。「時短」だ。

 日本の場合、概して海外より調理時間は短い。理由は「箸」の文化だからだ。肉の褒め言葉に「箸でも切れる」という言葉がある。これは肉が柔らかいという意味だが、基本的に箸だけで食べる日本では、多くの場合、肉は薄切りにする。

 だが、それでも煮るとなると時間がかかる。それを大いにサポートできるのは、調理家電だ。ということで、5番目のキッチン家電にいち早く名乗りをあげたのが、「電気圧力鍋」。

 自分も、一冬、毎日の様に楽しんでいた時がある。理由は簡単な話で、それほど楽だったからだ。鍋なので切り方に工夫は要らない。隠し味の工夫はあるとしても、大した手間ではない。

 鍋で面倒なのは煮込む時に、いつでも火を消せるように近くにいなければならないことだ。直火は油断すれば、他のモノに燃え移ることがある。火力があり余っていると言ってもよい。冬でも調理を始めるとキッチンが暖かいのはそれが理由だ。

 火災予防と料理の焦げつき防止のため、直火の場合、必ず側にいる必要があるのだが、これが実に面倒。キッチンで時間があっても、多くの場合、別のことができない。洗濯物を畳むという割合簡単な家事でもできないことがある。

 しかし、電化=電気圧力鍋を使うと、放ったらかしても、全然問題ない。焦げ付かさずに調理できる。それだけ、温度制御がきちんと行われている。この電気圧力鍋が市場に出回りはじめた頃、もう一つ大きな動きが家電にあった。「IoT」だ。IoTの調理家電に対する影響はすごく大きい。それまでの自動メニューは、本体に搭載してあるプログラムだけで、後で増やすということができなかった。が、IoT以降、増やすことが可能になったからだ。

 元々、深鍋はできる料理が多い。

 それを元にした電気圧力鍋の場合、「圧力調理」「無水調理」「低温調理」「発酵」「蒸し調理」「炊飯」「温めなおし」などができる。

 クルマがカタログスペックを争うように、調理家電もできることが多い方が好まれる。火を使う基本調理は7種。「ゆでる」「煮る」「蒸す」「炊く」「焼く」「炒める」「揚げる」だ。電気圧力鍋はこのうち4つをこなす。またオーブンには「焼く」という機能を持つ。

ポイントは「炒める」と「揚げる」

 つまり、それまでの調理家電で自動調理できないのは「炒める」と「揚げる」の2つだ。

 もしこれができるようになると、なんでも調理できるようになる。そのためにはIoTだけでは到達できない。物理的な機構も必要だ。今ある調理家電に「炒め」に対応できる機構を付け加えられたのが、「オートクッカー」と呼ばれるモデルだ。具体的には、「混ぜる」機構が加えられている。

 私の記憶が正しければ、「オートクッカー」という名称を初めて用いたのはパナソニック。ビストロの最高峰であり、一番多種の料理を作ることができるために、こう称したこともあるが、もう一つ、価格問題がある。多くのメーカーがベースにしている「電気真空鍋」が、高くても3万円台なのに対し、こちらは5万円台。「混ぜる」機能をつけると、コストがかかるので、明確に別カテゴリーで説明した方が納得されやすい。

 前口上はここまでにし、各社モデルをレポートしながら、詳細を説明したい。

シャープ 水なし自動調理鍋 ヘルシオホットクック

型番:KN-HW16H
内容量 1.6L(調理容量)、3.4L(満水容量)
サイズ: W330×D282×H240mm
定格消費電力: 600W
混ぜ機能:上ブタ裏に装着された「まぜ技ユニット」による
フタ:本体から取れない
アプリ:COCORO KITCHEN 

 初号モデル:KN-HT99A (2〜4人用)が出たのは、2015年なので、今年で10周年になる。以降、2〜6人(16年)、1〜2人用(19年)の追加、無線LAN搭載(17年)の標準化、フッ素コート内鍋の採用(20年)、設置のコンパクト化(21年)と毎年のように、より使いやすくするための改良が行われている。

 そしてポイントは、2015年の発売当初から、炒めに必要な攪拌機能が、搭載されていることだ。「まぜ技ユニット」と呼ばれるこの機能は、混ぜ棒が上フタよりのびた菜箸のようだ。少々頼りなさげでもあるが「焼きそば」 も「チャーハン」も調理できる。クラウド限定となるが、焼きそばはNo.255 (KN-HW10のみ対応) 、チャーハンNo.749の番号でオートメニューも用意されている。

 まぜ棒が上から入る関係上、具が硬く大きいときなど、最初から差し込めないこともある。ただ、その状態がいつまでも続くわけではない。熱している内に、食材は柔らかくなり、自重で崩れ 、何度かトライして行く内に、まぜ棒が入るようになる。

 実は、この上から混ぜるという方式は、シャープのみ。シャープは、当時発売していた「炊飯器」にこのまぜ棒を採用していた。その技術を応用したのだ。

 また電気鍋には2通りある。普通の鍋の様にフタが完全に取れるタイプと、炊飯器の様にフタが本体から外れないものだ。そしてヘルシオ・ホットクックは炊飯器タイプ。調理機器のフタを加えていうと、圧力機構は付いていない。このため、いつでも鍋を開け、入れ忘れた食材、調味料を追加することができる。物理的な時短より、予約などを上手く使い、生活に合わせた使い方が可能なモデルだ。

パナソニック オートクッカー Bistro(ビストロ)

型番:NF-AC1000
内容量:2.4L(調理容量)、4.2L(満水容量)
サイズ:W333×D336×H260mm
消費電力:1290W
混ぜ機能:鍋底かきまぜ
フタ:本体から取れない
アプリ:KitchenPocket

 パナソニックは炊飯器を含む調理家電を同じイメージで統一しようとしており、「Bistro」の名を冠しながらラインナップ整理をしている。自動調理鍋・電気圧力鍋にはたった3モデルしかない。

 圧力機能付きのオートクッカー、圧力機能なしのオートクッカー、そして電気圧力鍋なので、1カテゴリーたった1つである。その分どのモデルも丁寧に作られている。

チャーハンもつくれる

 オートメニューもしっかりしている。が、「焼きそば」はちょっと失望した。加熱は問題ないのだが、麺のへのソースの付きが均一でないのはちょっといただけなかった。ほぐして入れるように指示されているので、そのようにしても、調理時間を追加しても、うまくいかなかった。味には問題ないが、見た目も味のうち。私には、混ぜが足らないように見える。

 その一方、オートクッカーができない分野「揚げ」に対してもきちんとアプローチしており、「揚げ焼き」メニューが用意されている。

 タンパク質を調理する時の問題は、どれだけきちんと火を通すことができるかだが、焼きは時間がかかる。このため、日本中から参拝客がどっと押し寄せた伊勢参りでは「お伊勢さん」という料理が振舞われたと言う。

 伊勢参りが終わるまでは精進だが、参拝後は精進落としをする。みんな焼き魚を頼むのだが、昔は炭火。お客の注文に調理が追いつかない。そこで考えられたのがお伊勢さんだ。

 魚は、焼くのではなく煮る。周りは全部同じ温度なので、熱の通りは全部同じ。しかも皮ごと煮るので、旨みは外に逃げない。その魚の水気を十分切り、焼け箸で焦げ目を付ける。

 焼いたわけではないが、同じように楽しめるところがミソだ。

 NGする人もいるかもしれないが、料理は美味しければそれでいいところがある。特に「揚げ」は、用意より後片付けが大変。テンプルで固めて油は廃棄するとしてもだ。

 パナソニックが用意した鶏の唐揚げのレシピは幾つかあるが、実際に使う油は、大さじ4杯分程度。大した量ではない。プライパンを傾けて少量の油で揚げる手もあるが、それよりも油の使用量は少ない。で、なかなかに美味しい。レシピも唐揚げ粉が使えるモノとかもあり、面倒も少ない。こちらの方は、貪欲に作れるメニューを多くする努力が実った感じだ。天ぷらはできないが、唐揚げに近い鶏料理が楽しめるのは嬉しい限りといえる。


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