アイリスオーヤマ(以下アイリス)という会社は、「何を売る会社」なんだろうか考える時がある。
売り上げの半分は家電なので家電メーカーと言っても良いのだが、作っている商品が多過ぎる。思い浮かぶものだけでも、中身の見える衣装ケース、マスク、ペット用品、パックごはん、炭酸水、緑茶、紙おむつなどなど。家電を含む、生活必需をここまで多岐に作っているメーカーは多分ないだろう。
だが、これはアイリスがある考え方に基づきビジネスをしてきた結果だ。ある考え方というのは、「ジャパン・ソリューション」、日本の社会課題を解決するという考え方である。
税金を国民から取り立て、ギブ&テイクの利権寄付を生業として、立法という権力があるにもかかわらず、問題に十分な対応ができない今の政治と全く違う。社会課題に対処しながら、利をあげている。新しい日本の企業のあり方を見てみたい。
創業から2000年までホームソリューションの時代
「ジャパン・ソリューション」の前、アイリスがどんな会社だったのかというと、ホームセンターが扱う商品に強い、普通の会社だった。
アイリス=仙台のイメージが強いが、創業は大阪布施市。今の東大阪市。ここのプラスチック製品の下請け工場から、アイリスの歴史は始まる。1958年のことだ。
初めてオリジナル製品を出したのは1966年のこと。商品名は業務用ブイ。当時のブイはガラス製だった。合成樹脂=プラスチックの利点は、軽い、丈夫、自在な形状。球状のガラスは精密寸法をとやかく言わなければ、割合作りやすい。だが、重いし、割れる。その欠点のないブイはとても重宝されたという。今ならマイクロプラスチックの害をあげる人もいるかもしれないが、その事実認識がない時代。当時としての、満点解答だろう。売れたという。
だが、それは同時にプラスチックのビジネスポイントも気づかせてくれた。それはプラスチック製品は、「軽い」と言うことだ。いや軽過ぎるといってもよい。特に、軽く、丈夫なため、モノを守るということに使われるケースはプラスチックの十八番。プラスチックのケースの中身は空。このためケースを運ぶと言うことは、別の言い方をすると空気を運んでいるということだ。
実際、1989年にアイリスがヒットさせたのが、透明な衣装「ケース」。商品的には中身が瞬時にわかる「透明」でヒットするのだが、私が強調したいのは「中身のない」ケースという部分だ。
ケースを運ぶ時はトラックを使う。小回りの利く、2t、4tではなく、10tとかの大型。しかし載せるのは、ほとんど空気なので実際の重さは1/10とかになる。大型はエンジンを含め、パワー仕様なので、燃費も悪い。高速代も高い。軽いモノを運ぶには不合理なことこの上ない。この嵩張り、軽いものへの解答が、同年の宮城への本社移転だ。
大きな工場で大量生産=コスト低減ではなく、土地が安いところに
工場を建て、輸送費込みでコスト低減を図ることにしたのだ。なぜ、東北なのか? 例えば、アイリスでいろいろなことに使われている角田工場。仙台市の南側にあるのだが、東北自動車道、常磐自動車道双方にアクセスがいい位置にある。大消費地・東京に近く、2以上の高速道路にアクセスできて、土地代が安い所は限られる。
しかし移転は、それまで大阪で築いてきた信頼関係を大阪に置いてくること意味する。理屈は通っているが、かなり難しい選択なことは想像に難くない。
これ以降、アイリスは日本全土に渡り、工場・物流基地を持つことになる。この流通まで考えビジネスを行う考え方は、1980~2000年のアイリスのスタイル「メーカーベンダー」へとつながる。
メーカーベンダーとは、メーカーが小売まで持っていく方式。間に問屋が入らないため、製品単価の安い商品に適したやり方でもある。
アイリスは、透明衣装ケース以降も、日本人が必ず趣味にする「園芸」「ペット」でヒットを飛ばし続ける。
そして2000年代、後半に家電に進出する。振り出しは家電とは言えないLED電球だった。電球は、照明システムのパーツであるが、戦前からある家電でもある。発明者はエジソン。日本メーカーは各社頑張って作っていた。パナソニック(当時松下電器)、東芝が特に有名だ。
ところでアイリスは、価格ありきで商品化する。そして価格は「積み上げ方式」ではなく「市場にあった」価格。LED開発時、当時の大山健太郎社長(現会長)は2500円を主張した。根拠は当時白熱電球に1年でかかる電気代が2500円だったからだ。1年間で元が取れるなら、買ってもらえるだろうと考えたそうだ。
当時、最新の価格はシャープ式が支持されていた。寿命で価格を合わせると言う方法だ。白熱電球の寿命は1000時間で100円/個に対して、LEDは4万時間。だから4000円/個。金額は高いが、節電できるので問題ないとしたわけだ。ユーザーは節電する分儲けられるという考え方だ。長寿命化すると、その分売り上げが落ちる。それに対し、今までの価格を既得権として掲げたようなものだ。しかし普及する前、こう理屈を付けられると、メーカーとしてそれ以上価格を下げる必然性はないと宣言しているようなところもあり、普及が遅くなる。特にLED電球化は、省エネではあるが、新しい世界をユーザーにもたらすものではない。
一方で、メーカーの方の理由もある。LEDの本体通電させて光ることに関しては、寿命がない。LEDが寿命を持つのは、通電させるための結線、色を整えるための蛍光材などが劣化するからだ。このためLED電球は発熱電球と異なり、金属の放熱フィンをもつ。実に作りにくい仕様で、おいそれと値下げできる状態ではなかったのも事実だ。
当時の社長(現会長)から、半額の市場価格と言われたアイリスの開発者は、アルミパーツを樹脂パーツに変えると言う、普通ならまずしないところまで踏み込んだコストダウンを行った。
その結果、トップシェアを獲得した。家電を初めて間もないアイリスが、だ。LED電球という分野だが、確かにアイリスは家電に橋頭堡を築いたわけである。ちなみに、今もトップシェアを維持している。
