<本日の患者>
B.D.さん、36歳、男性、証券会社ストラテジスト。
「先生、どうして医者は病気の名前を増やしたがるんでしょうねー」
「え? どうしたんですか、B.D.さん」
「長く続く身体の症状を『PPS』って呼ぶようになった、というネットの記事を読みました」
「ああ、『持続的な身体症状(Persistent Physical Symptoms; PPS)』のことですね。その前には『医学的に説明のつかない症状(Medically Unexplained Symptoms; MUS)』なんていうのもあって、名称の異同を議論している人たちもいます」
「名前にこだわるより、もっと患者がどう辛いのかに向き合ってくれると良いんですけどねー」
「同感です」
B.D.さんは、2025年3月の『繰り返される原因不明の腹痛…「過敏性腸症候群」とは?診断基準と受療行動を考える家庭医のアプローチ』に登場した証券会社の営業マンである。彼を困らせていた過敏性腸症候群(IBS)の症状は、食事を含む生活習慣の改善と最小限の薬物療法、そして認知行動療法を取り入れたマネジメントを続けながら落ち着いている。体調の改善もあって営業成績が伸びて、今年度から「ストラテジスト」へ昇進したと喜んでいた。
医療現場に潜む「不都合な真実」
現代医療はかつてない高度な診断技術を手にしてきたと思われがちだが、その医療現場の裏側には、科学の光が届かない広大な「死角」が広がっている。それは、診断のために診察と検査をしてもその原因が特定できない「原因不明の身体症状」がまだ多数存在することだ。人によって症状の訴えは様々で、不調は全身の臓器や部位におよぶ。
具合が悪くて病院でいくつも検査を受けたのに、医師からは「どこも異常ありません」と言われる。でも確かに身体は悲鳴を上げている。解決の道筋が見えてこない。
別の病院、別の診療科、別の医師なら診断できるかもしれないと、複数の医療機関への受診を繰り返す(「ドクター・ショッピング」と呼ばれる)。それでもまた「検査結果に問題はありません」と言われて途方に暮れる。
受診のたびに、「他の診療科を受診してはどうですか」「ストレスからでしょう」「精神的なものかもしれません」、女性の場合は「更年期かもしれませんね」と言われることさえある。
