
<本日の患者>
B.D.さん、34歳、男性、証券会社営業職。
「そうすると、症状としては、いろいろな部位で感じる腹痛が1年以上前からあって、下痢もしばしば出ているんですね。腹痛の頻度はどのぐらいですか」
「週に2日ぐらいでしょうか」
「腹痛が来る時は、『何か来そうだな』とか予測できたりしますか」
「できませんね。だから仕事で大事なプレゼンとかがある時はびくびくです」
「それは大変ですね。B.D.さんとしては何か原因として思い当たるものはありますか」
「ありません。これまで病院では『心理的なもの』とか『気にし過ぎるから』とか言われましたが、それには納得できないんです。本当に痛くなるんです」
B.D.さんは、2年前に本社からの出向でこの街にある系列の会社勤務となった。本社にいた3年前の春と秋には、それぞれ右上腹部と左下腹部に鈍痛があって救急外来を経て入院した。腹痛は数日で治り、「胃腸炎でしょう」とか「胆嚢(たんのう)の関係かもしれない」ということで、はっきりした診断名を告げられることもなく退院し、その後は自分で近くの医院で数種類の内服薬を処方してもらっていた。
転勤して半年ぐらいしてから時々臍(へそ)の周囲や右下腹部に痛みを感じるようになり、しばらく我慢していたが、週に1〜2回下痢と微熱を繰り返すようにもなった。近くの診療所を受診して「胃腸が弱っている」と言われて各種胃腸薬の内服と痛み止めの注射をされたが症状は改善せず、1年前に別の病院を紹介された。そこで血液・尿、内視鏡(食道、胃、十二指腸、大腸)、腹部超音波、腹部レントゲン・CTなどを検査されたが、何も異常がないと言われた。その後も症状が続くため、家庭医のことを知る友人から勧められて私のいる診療所へ受診したのだった。
B.D.さんからさらに病歴を聴きつつ、身体診察とメンタルヘルスに関するスクリーニングもした上で、私はB.D.さんが困っている問題として過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome; IBS)の可能性をまず考えた。もちろんその他の疾患や状態が関与している可能性も否定はできないので、しばらくは経過を注視していく必要があるが、今回はIBSにまつわる家庭医の診療上のチャレンジについて語ってみたい。