病気や症状、生活環境がそれぞれ異なる患者の相談に対し、患者の心身や生活すべてを診る家庭医がどのように診察して、健康を改善させていくか。患者とのやり取りを通じてその日常を伝える。
<本日の患者>
M.A.さん、43歳、女性、インテリアデザイナー。
「この頃、何か胃の調子が悪いんです。胃薬をもらえませんか」
「そうですか。胃の調子を心配してるんですね。では、少し詳しくお話を聴かせてもらって、それから診察をしていきましょう」
ちょうど5年前に、M.A.さんが心配そうな表情で私の働く家庭医診療所へ最初に受診した時のことを思い出した。私がそう言った後で彼女が「え、ここはすぐにお薬をもらえないんですか」と驚いたことも覚えている。
私は、診療が始まる前に、その日診療する予約患者の診療録(カルテ)を読んで、個々の患者でどのような診療をしようか考える時間を作っている。患者との会話を思い出したり、関連する診療ガイドラインや臨床研究のエビデンスを調べることもある。上記のやり取りは、今日受診予約をしているM.A.さんについて考えていた時に思い出したのだ。
M.A.さんは、5年少し前にこの町へ引っ越してきた。ホテルや介護施設の内装プランニングをする会社で、当時彼女は新しくこの地域に進出した事務所を任されて多忙を極めていた。
今日のトピックとしてこの後で説明するが、この時のM.A.さんには消化性潰瘍があって、一緒にケアを進めることで症状は改善していった。その後もこの診療所でいろいろな健康問題を相談しつつ、元気に仕事を続けている。
今では、「治療すなわち処方箋」ではなくて、いろいろなオプションを家庭医と一緒に吟味して相談しながらケアを進めるスタイルを好んでくれている。今日は、70歳の母親T.N.さんの認知症について相談するために予約している。