2024年12月1日(日)

家庭医の日常

2024年12月1日

 世界全体で見ると、ピロリ菌感染の有病率は一般人口の44〜49%であるが、地域や人種的背景によって大きく異なっている。開発途上国で高い。

 そのピロリ菌を発見し、胃炎と消化性潰瘍の発症におけるその菌の役割を解明したのは、西オーストラリア大学のBarry J. Marshall教授とロイヤル・パース病院のJ. Robin Warren博士である。その業績により、彼らは2005年のノーベル生理学・医学賞を受賞している。

 受賞者の経歴などを公開しているノーベル賞の公式ウェブサイトでは、彼ら2人がどうやってピロリ菌の研究を進めたかのエピソードが自伝風に綴られていて興味深い。

 1981年、2人が最初に出会ったのは、Marshall教授がまだ内科の専門研修医だった時で、当時病院の病理部門にいたWarren博士が進めていた手術で切除された胃や十二指腸から見つかる「不思議な螺旋状の細菌」の正体を解明する研究を手伝うように指導教官から勧められたことがきっかけだった。

 こうして臨床医と病理学者が協力することで、その「不思議な螺旋状の細菌」が胃炎や消化性潰瘍を引き起こす原因菌であることが証明され、「螺旋状の」を意味する「helical」と胃の出口(幽門 pylorus)の付近でこの菌が多く発見されたことから、この菌は「ヘリコバクター・ピロリ (Helicobacter pylori)」と命名された。

非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)

 NSAIDは、解熱や鎮痛を目的に使用される。また、このクラスに属するアスピリンは、既往歴に脳卒中や心筋梗塞などがある人に対して、再発を予防するために長期にわたって使用される重要な薬である。

 2014年に発表された、英国のプライマリ・ケアの患者データベース(300万人超を含む)を利用して合併症のない消化性潰瘍発症への使用薬剤の影響を調べた研究によると、NSAIDの使用は消化性潰瘍になるリスクを高め、このクラスの薬を1種類服用している人では中程度の増加(オッズ比1.64)、複数種類の薬を服用している人では大きな増加(オッズ比3.82)があった。NSAIDの使用期間が長くなるにつれてリスクは増加した(使用が3年以上のオッズ比2.46に対し、3カ月未満のオッズ比は1.07)。

 アスピリン使用による消化性潰瘍のリスク増加は、他のNSAIDで見られるものと同様であった(オッズ比1.54)が、アスピリンとクロピドグレルを使用した抗血小板薬2剤併用療法では、期間やアスピリンの用量に関係なく、リスクが大きくなった(オッズ比2.62)。

 ここで「オッズ」とは、ある事象が起こる確率がその事象が起こらない確率の何倍であるかを示す数値であり、オッズが大きくなるほどその事象の「起こりやすさ」が増す。異なる群での事象の起こりやすさを比較するには、それぞれのオッズの比(「オッズ比」と呼ぶ)を用いる。

 若干古いデータではあるが、02年に発表されたメタアナリシスでは、ピロリ菌感染とNSAIDの使用が同時に起こると、消化性潰瘍および出血性消化性潰瘍のリスクが相乗的に増加することが示された。ピロリ菌に感染していてNSAIDを使用していた人は、ピロリ菌感染もNSAID使用もしていなかった人に比べて消化性潰瘍を発症するリスクが61.1倍も高く、出血性消化性潰瘍のリスクは6.13倍増加した。

 先日、薬剤師や登録販売者がいないコンビニエンスストアなどの店舗でも市販薬(一般用医薬品)を買えるようにするとの厚生労働省の方針が報道された。NSAIDも含まれる。法案が成立すれば1〜3年後に導入される見通しだ。

 現在でもインターネット通販でNSAIDを購入することはできるが、さらにコンビニなら夜間も手軽に入手できることになる。急な症状に対処するための利便性は増すが、同時に長期使用や大量使用によって消化性潰瘍を含めた副作用の増加が心配である。


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