「もし、あした死ぬことになったら、あなたが最後にしたいことはなんですか」という命題がある。会いたい人に会う、行きたいところに行く、好きなことをする、食べたいものを食べるなど、誰でも一度以上は、考えたことがあるのではないだろうか。
高齢者社会の日本では、医療だけでなく、限られた時間の生活の質(QOL)を少しでも向上させる具体的な試みがあちこちで始まっている。医療者も関わって大切な人と思い出の場所を訪ねる計画を立て、看護師が同行する小旅行などもあるという。
今回は、最後に何を口にしたいかを考えたい。題して「あなたの最後の晩餐はなんですか」。健康を害すると食事が制限され、好きなものを我慢しなくてはならないことがある。糖尿病の患者が甘いものを控えたり、腎臓病の人が薄味食をとったりするなど。
そのような条件下で私たちが最後の晩餐として選べるものは何だろう。健康状態によっては、最後だからといって好きな食物を堪能できるとは限らない。歯ごたえが好きでも硬いものは難しそうだし、のど越しを楽しみたい飲料はさらさらしすぎてむせるおそれがある。
食の楽しみを奪う「嚥下障害」
「物を食べる」とひとえに言っても、食べ物を認識し、口に入れ、噛んで、飲み込む、までの一連の動作が全てできて成り立つ。一つでもできないと、うまく飲み込めない「嚥下障害」ということになる。
調べてみると、私たちは普段よく上手に嚥下しているものだと感心するくらい、嚥下という動作は複雑だ。嚥下は3つのプロセスに分けられる(日本気管食道科学会)。
(1) 口腔期:主に舌の運動により食べ物を口腔から咽頭に送る動作
(2) 咽頭期:嚥下反射により食べ物を咽頭から食道に送る動作(これがうまくいかないとむせる)
(3) 食道期:食道の蠕動(ぜんどう)運動により胃まで食べ物を運ぶ
つまり、嚥下障害は、唾液が少なくなったり、口腔粘膜が過敏になって痛くなったり、舌がうまく動かずに食物の交通整理ができなくなったり、飲み込む力が衰えたりと、さまざまな要因から起きる。患者や家族が関われるのは口腔期が中心になるが、咽頭期、食道期までうまくいかないと、食物は無事にとりこまれないのだ。