2024年11月21日(木)

食の「危険」情報の真実

2023年9月16日

 最後の晩餐までいかなくても、ベッドで過ごす時間が長い患者にとって、食が細くなり、食べられる物を制限されたりすると、QOLは低下する。チョコレート好きは多く、チョコレートドリンクはQOL向上に有効そうだ。

 岡本さんは訪問診療で担当する高齢者や神経難病、頸椎損傷といった約50人の患者の声をもとに、症状や生活状況、趣味嗜好にあわせたチョコレートドリンクの開発を進めている。

会話を紡ぐ「食」

 ショコラビットラボの店内には、カカオの産地や品種ごとに味を分類する図が掲げられている。まるでワインや日本酒選びの指南チャートのようだ。ここに、岡本さんの「産地、品種によって風味が異なることをいつまでも楽しんでもらいたい」という思いがある。

店内には、その時に並ぶチョコレートが味ごとにマッピングされている 写真を拡大

 在宅医療を受けている人たちは、外出がままならない人が多い。元気な時は、家族や友人と素敵なお店に出向いて、あるいは旅先でおしゃべりしながらワインを選んだり、ソムリエの話からブドウ畑に思いをはせたりして、みんなで同じものを食べられることが当たり前だったはず。

 「家族が皆集まったけれど、患者さんだけ流動食だったりするのは寂しい。皆で同じものを食べたい」という声を患者から聞くそうだ。チョコレートドリンクなら、全員で同じものを楽しめる。

 この理念を支えるのがカカオ豆から完成品のチョコレートまで、一貫して製造する「Bean to Bar」という手法だ。カカオ豆からカカオニブ(ローストしたカカオ豆を小さく砕いたもの)をつくり、小さな粒子にしたカカオときび砂糖を7:3で混ぜてチョコレートに成型する。

Bean to Barの製造工程イメージ(ショコラビットラボ作成) 写真を拡大

 広く市販されているチョコレートは、カカオ豆をブレンドしたりカカオバターを加えたりしてどの製品も同じ品質になるようにするが、Bean to Barはカカオ豆の素材の風味を活かす。ショコラビットラボでは、きび砂糖の比率も統一することで、カカオの違いを楽しめるようにしている。

 そうして作られたBean to Barのチョコレートドリンクは、それぞれの好きな風味や産地の物語が集まった人たちの会話を豊かにするかもしれない。何かを食べるということは、栄養の摂取以上に人々を集わせ、対話を紡ぐ。

 食べる楽しさと栄養という点では、和菓子好きの患者に小豆のこしあんを利用した食物などもいいのではないだろうか。嚥下障害の人の食の選択肢がどんどん増えていってほしい。

 あなたは最後の晩餐で、誰と何を食べたいですか。見送る人と見送られる人に、世の中は日々優しくなっている。

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