CEATEC(シーテック。毎年10月に開催される日本最大のITとエレクトロニクスの展示会)では、情報通信・ネットワーク・データ・AI技術・IoT技術の高度利活用や、地域社会におけるデジタル利活用などにより、CPS/IoT社会の進展とSociety 5.0の実現に、最も寄与すると評価される応募案件を選考表彰する。
2023年「デジタル大臣賞」として表彰されたのが、ザクティの「リアルタイム映像DXソリューション"Xacti LIVE(ザクティライブ)"」。世界最小最軽量級の30グラム以下を達成、メガネのテンプル(つる)の部分他に違和感なく装着できる小型カメラで、現場状況を生中継、遠隔支援できるようにビジネスパッケージしたものだ。
実際に小型カメラを装着すると、瞬時に凄さがわかる。メガネがズレないのだ。メガネに取り付けることができると現場担当と視線を共有することができるので、とても使いやすい。
そんな中、引っかかっていたのは、「ザクティ」という名前。「どこかで聞いたことが……」と、思い巡らしている時、ロゴマークが目に止まった。ピンとくるものがあり、尋ねてみた。「元三洋さんですか?」
2003年に三洋電機が出した、デジタルムービーカメラのブランド名が「Xacti」だった。それまで録画テープ(DVC)で行ってきた記録をSDカードで行う。ガングリップタイプの小型モデルで、ポケットからすぐ出し入れできる。それに加え、静止画、動画、双方とも撮りやすいという、今のこなれたスマートホンのカメラに近い使い勝手を実現していたモデルだ。
説明員の答えは「イエス」。CEATECのちょっと前に、元三洋の洗濯機事業部がハイアール傘下になり創立されたアクア社のドラム式洗濯乾燥機の2023-24年モデル発表会に出席したが、その席上で三洋時代から引き継がれたきた「エア・ウォッシュ」機能が話題を振りまいており、元三洋のスタッフは、本当に粘り強いなと思っていた矢先のこと。ますます、その思いが強くなる一方だ。なぜ元三洋は、こんなにも「継続」に強いのかと、疑問が沸いた。
三洋電機がパナソニックの傘下に入ったのは2009年。「ザクティ」、「アクア」ともに創立は2012年。元三洋のメンバーは、数年間、パナソニックに在籍したことになる。当然パナソニックは、自社と相性がいいところ、もしくはキーマンから切り離し吸収して行くだろうし、パナソニックのほうが経済安定度はいい。かなり魅力的なはずだ。彼らはなぜ独立、新規ビジネスに打って出ることができたのだろうか?
パナソニックと袂を分れられた背景に、OEMビジネス
中堅家電ながら実力のある三洋電機は、色々なビジネスをしていた。その中の一つがOEMビジネス。OEMとは、「Original Equipment Manufacturing」の略で、製造業者が他社ブランドの製品を製造することだ。
三洋電機は、名前は知られていたが、だからといって、どんなものでも右から左へ売れる程のブランド力はない。市場が拡大する前だったり、売れ筋モデルがなかったりすると、どうしても生産ラインが空いてしまう。
そして生産ラインは、稼働率があるレベルを超えないと、想定コストを達成することができない。OEMはこのような時に有効なビジネスなのだ。割と多くのメーカーがOEMを体験する。
そのOEMビジネスには、「秘密厳守」という不文律がある。契約書も作成するが、それより業界の仁義である感じだ。これは、同じ生産ラインで、自社、A社、B社など複数の製品を作るためだ。
しかし新製品の品質を確認するためにB社が製造ラインを見に行ったら、A社の新製品の生産の真っ最中。B社担当は、競合するA社の新製品を見てしまった。なんてこともある。秘密厳守するのは、容易に見えて、かなり難しい。
一番の防止法は、アップルのように、ライン、建屋の貸切。これはアップルの他社の追従を許さない発注数による。
そこまでは数量がないデジカメのOEM。パナソニック傘下に入った「ザクティ」の面々が直面したのは、OEM先から、当時デジカメ事業を急速に伸ばしていたパナソニックに対する秘密保持要求だった。OEM先からすると、三洋はともかく、パナソニックに製品情報は渡せないというわけだ。
パナソニックの鶴の一声でOEM中止という決断もあったかもしれないが、多くの場合、顧客を手放すという判断はしない。元三洋のザクティメンバーは、パナソニックブランドにもかかわらず、そのままOEMビジネスと、三洋の残務整理をすることになった。
そして、数年後、ほぼそのままの状況を維持しながら、元三洋のザクティメンバーはパナソニックから独立する。
なぜ、三洋ゆかりの「ザクティ」を社名にしたのか
独立する場合、社名を決めなければならない。普通なら、中核になる人物が決めることが多いが、ザクティは、全社公募で決めたそうだ。三洋からパナソニックへ移籍したメンバーで立ち上げる新会社。全員の意見を反映させたかったのだろう。
結果は「ザクティ」。社名はカタカナで「ザクティ」、ブランドはアルファベットで「Xacti」としている。
OEMでない B2B を模索する
独立した時は、デジカメのOEMビジネスに集中する。そんな中、「ザクティ」の名前を残したのは、社名だけでも自社ブランドを残したいという想いだったそうだ。
ただ、独立した2013年頃から、スマートフォンの性能もカメラ性能も爆上がり。今では、コンパクトデジタルカメラはもちろん、高級スマートフォンは入門用の一眼レフ、ミラーレス一眼を同等以上と言っても過言ではない。今、一眼カメラを使わなければならない被写体は、鳥のように動きが速い、月の様に超遠距離の長距離の被写体を撮る場合くらいのものだ。
縮小する市場に対しては、当然OEM顧客も離れていく。要するに、当初のOEMで食べていくという目論見はこのため「ザクティ」は、新しい道を模索することになる。
最大の武器は三洋時代から一貫して培った「技術力」。しかもメンバーも同じだ。それに加え、新規採用のスタッフという新しい眼で、ビジネスを見直した。
結果、「Xacti」というブランドの下、冒頭の小型カメラで遠隔支援ができる「Xactiライブ」を作り上げ、これが成功し、現在も拡大中だ。
また、今後、産業用ドローンとの協業も強化して行くとのこと。
「カメラ」という古い市場は小さくなっても、デジカメは人間の目と同じ。視覚センサーとして使える。確かな技術に、新しい視点を加えたことが成功に繋がったわけだ。