2024年12月22日(日)

新しい〝付加価値〟最前線

2023年7月22日

学校とエアコンと熱中症

 令和の世、公共の建物には基本エアコンが設置されている。学校も例外でない。7月上旬でも、気温が体温より高くなる日があり、学業に身が入らないどころか、熱中症で命が危なくなる時があるからだ。当然、政府も交付金でサポートしている。

 2020年9月30日行われた文部科学省の発表によると、小中学校などの普通教室は、全国に42万6414室あり、うち設置済みは39万6567室。93%となっている。秋田、青森、北海道、北国の一部が遅れているとのことだ。

文部科学省の資料より 写真を拡大

 政府は、普通教室に続き、理科室などの特別教室、また体育館などにも設置100%を目指しているが、こちらは時間がかかりそうだ。

 だが、教室での授業だけが学校ではない。体育の授業もあれば、部活もある。体育は、夏はプールという技が使えるが、部活はそうは行かない。陸上、野球、サッカー、ラグビー、テニスなどなど、2時間位体を動かし続けるわけで、非常に暑かったり、体調が悪いと熱中症になる可能性がある。また朝、体調が良くても、小中学生の体調急変はある話だ。体が出来上がっていない年頃であり、エアコンが当たり前になっても、熱中症は大きな問題として学校の前に立ちはだかる。

熱中症と肌体温と深部体温

 熱中症は、体が熱を処理しきれなくなると発生する。人は恒温動物。そのために発汗による体温調整機能を持っている。ただ体温も部位によりかなり変わる。最も測りやすいのは肌体温。一方、脳、臓器など、体の深部の体温は、深部体温と呼ばれ、皮膚温より0・5℃から1℃高いと、いわれている。

 深部体温は直腸、膀胱、鼓膜などで測定する。外からアプローチできる部位で測定するがとても測りにくい。そのため比較的深部に近い体表として、用いられているのが、脇の下だ。

 熱中症は、何らかの原因で、体温調整機能を上回る熱を体が持った状態。熱中症の「意識が朦朧とする」「めまいがする」「頭が痛い」「吐き気がする」「体がだるい」という症状は、脳、臓器が、高温にさらされ、調子がおかしくなっているためだ。このため、深部体温がキーとなる。

 これらのことから、予防とは深部体温を上げない工夫をすること。そして対応は、上がってしまった深部体温を下げることであることがわかる。

深部体温を計るスマートデバイス

「自分のことを一番わかっていないのは自分」。よく使われる言葉だ。それは体調にも当てはまる。自分では大丈夫なつもりなのに、母親に「あんた、熱があるんじゃない?」と、体温計で測ったら熱があった経験は、ほとんどの人が持っていることだろう。

 海よりも深い母の愛情、また医者の視診に難癖をつけるわけではないが、その技は学校では使えない。予防のために、まずしなければならないのは、深部体温の連続計測だ。これができなければ、誰でもできる予防にはならない。

 なら計ればいいのではとなるが、実行しようとすると問題は山積みとなる。1つ目は直腸検温のように身体の中に計測器を入れなければならないことだ。自分では極めてやりにくい。2つ目は測定時安静にしておかなければならないこと。加えて、測定は基本医療従事者が行うことになる。要するに身体の中を弄るようなことは素人ではダメというのが、今の日本だ。

 しかし、手がないわけではない。ウェアラブル・デバイスだ。スマートウォッチは、今、常に体に接触しているデバイスとして、ヘルスケア分野からずごく注目されている。なぜかというと、脈拍などのバイタルを連続して計ることができるからだ。その中には、直接計れなくても、他のデーターからビッグデーターを使い、推定できるバイタルも含まれる。医療としては使えなくても、普段の生活で注意するのには困らないレベルというわけだ。

熱中対策ウォッチ Biodata Bank社の「カナリア」

カナリア(装着時)

 特許取得済みの深部体温推定技術と、独自のアルゴリズムを用いて着用者の熱中症リスクを検出し、熱中症の2歩手前でアラーム音と LED で知らせる熱中対策ウォッチ「カナリア」を作ったのは、日本の医療ベンチャー会社Biodata Bank社。

 「カナリア」を見せてもらうと、ウォッチとはいうものの、時間表示ディスプレイすら付いていない。実にシンプルな熱中症予防に特化した構成。裏側には、センサーの端子が見える。肌体温を測り、深部体温を推定するのだが、ここら辺はノウハウの塊であり詳しい説明はなかった。

カナリア 裏面 センサーが見える。かなりのサイズ

 すごいのは、「カナリア」の割り切り方。前述の通りディスプレイはない。また通信機能もない。熱中症リスクを割り出し、発症する2歩手前で、光と音で警告することに特化している。実にシンプル。

 目的が明確なものはシンプルな方が使い勝手がいい。まず軽い、壊れにくい、使うとき迷わない。消費電力を下げることができる。実際カナリアは3、4カ月電池を変える必要はない。私が使っている「FitBit」のモデルはいろいろなことができるが、電池は1週間は保たないので、何かと充電している。それと全く異なる。

 本体は防水。汚れたら水洗いすればいい。装着はベロクロベルト。ベルトの脱着も楽で、こちらも洗うことができる。極めて実用的。そしてシンプル構成なので安い。低予算でも使うことができる。


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