コーヒーの抽出法を何種類知っているだろうか? 「ドリップにサイフォン。あとは……」、そういう人が大半だろう。コーヒーのメジャー抽出法は「ドリップ」「サイフォン」「プレス」「エスプレッソ」の4つに分類される。
有名なのは「ドリップ」と「サイフォン」だが、このところ、「サイフォン」はあまり聞かなくなった。昭和の時代、喫茶店でコーヒーの抽出というと、サイフォンだった。喫茶店のカウンター台の上は、サイフォンが10台くらい並べてあった。しかし、令和のカフェではあまり見かけない。
今年、タイガー魔法瓶(以下 タイガー)が、新しいサイフォン式のコーヒーメーカーを出した。名前は「Siphonysta」(サイフォ二スタ、以下、サイフォ)。見た目からして今までのモデルとは全然違う。
サイフォンとは何か?
使ったことがない人でも、サイフォンの独特な奇妙なフォルムは見たことがあるだろう。フラスコを2つくっつけた感じのフォルムだ。
また抽出方法も面白い。上ポッドにコーヒー粉を、下ポッドへは水をセットする。そして下ポッドを熱する。沸騰時、空気は湯気とともに上方向へ逃げ圧力差が生じる。このためサイフォンの原理の通り、熱湯は上へ移動する。
そして、コーヒー粉がお湯に浸かる。浮いているとコーヒーを抽出できないので、竹ベラなどでコーヒーを沈める。約1分で抽出は終わり、上ポッドはコーヒーで満たされる。
そこで下ポッドの熱源を切ると、圧力差は元に戻る。上への圧力差は解消される。このためコーヒーは重力に引かれ下ポッドへ移動する。上下、2つのポッドの間には、ネル(きめ細かい布)フィルターが設けられている。下へはコーヒーのみ落ちていき、上ポッドにはコーヒー粉のみ残る。
長々しく説明したのは、このお湯が上へ上がる、抽出が行われたコーヒーが下へ下がることが、サイフォン式の魅力の一つだからだ。
中国茶を抽出する際、よくガラスポッドが使われる。色の変化と、閉じていた茶葉が開く様子が見えることが面白い。コーヒー粉は膨れるだけで、茶ほどの魅力はない。しかしサイフォンは、お湯やコーヒーを上下に動かすことにより、視覚的な面白さを伝えることができる。抽出している感じがより出る。
これに加え、コーヒー粉を完全浸漬するので、抽出がよくできる。上昇する温度ま決まっているので、温度管理に気を配らなくてもよい。時間さえ守れば、味の再現性が高いこともサイフォンの魅力として挙げられる。
洗うのが手間という欠点はあるものの、喫茶店店主を含む、コーヒーマニアが、サイフォンを支持するのは、それ相応の理由がある。
ぶっ飛んだビジュアルのタイガーの「サイフォ二スタ」
その点、タイガーのサイフォは、今までのサイフォンの規格外にある。
上下ポッドの代わりに、透明カプセルが左にずんと据えられてる。そして円柱的なフォルムが直方体へ。面影はほとんどない。よくコーヒー器具には「珍奇」という言葉が使われる。初期のコーヒー器具は珍しかったからだが、サイフォの場合は、それすら超えたフォルムのように思える。SFチェック、モダンアートのようだ。
サイフォンの魅力の一つに液体の移動があると先ほど言った。下のお湯が上へ移動。抽出で色づき、下へ移動する。しかしサイフォは、そこも修正した。水はカプセル上部にセット。そしてお湯は下部に移動、コーヒーを抽出する。そして下部のコーヒーは上部へ。この時、カプセルトップへ吹き当たり、コーヒーは壁面に沿って流れる。色のついた噴水は目立つ。
また、普通のサイフォンは下ポッドのコーヒーを完全に入れ切るには、手間がかかる。場合によっては、完全位逆さにする必要がある。サイフォでは、カプセルをセットしたまま、コーヒーを取り出せるようにしてある。タイガーは今年創立100周年。その熱意も感じられる製品だ。