スタッフがばらけなかった「アクア」
ハイアール社の傘下である「アクア」は、洗濯機、冷蔵庫を中心にした白物家電のメーカー。その母体は、元三洋の洗濯機事業部、業務用洗濯機事業部、冷蔵庫事業部。三洋がパナソニックの子会社化された後、この2つの事業部をハイアールがパナソニックより譲り受け、2012年に創立した会社である。
三洋電機の白物家電の中で、洗濯機は定評があった。三洋の名が世に知れ渡ったのは、1953年の噴流型洗濯機と言われているし、70年の大阪万博でも「人間洗濯機」を展示していた。加えてコインランドリー用の洗濯機も作っていた。今でもコインランドリー用洗濯機の国内機器出荷台数シェア約70%は、「アクア」が占める。
2009年にパナソニックの子会社になるが、当時はまだ「SANYO」ブランドの製品があり、元三洋のメンバーは、「SANYO」ブランド製品の開発に従事する。
そうしているうちに、世界最大級の白物家電メーカーが、彼らに目をつける。ハイアールだ。ハイアールは2002年に三洋と提携し、三洋ハイアールを設立していた。
では、すぐ話がまとまったのかというと、そうではない。同じ同業の日本メーカーでも他社は異文化。テレビドラマでもよくあるパターン。その機微は日本人が好むところで、トレードに出されたプロ野球選手は、サラリーマンの酒の肴となる。
それはさておき、ハイアールの申し出には、元三洋スタッフもビビったそうだ。言葉も違う完全な異文化。ものの考え方、生活習慣、全部が異なる。
それに対し、ハイアールは丁寧な対応を行ったという。日本と中国は長い付き合い。隣国であり、理解し合えたという。
結果、スタッフは欠けることなく、日本の新会社「アクア」に移籍することになった。が、ここで驚くのは、一人も欠けずと言うこと。勤めていた会社が、日本でも有数の会社の子会社になる。次は、中国企業が新しく作る会社に移籍。数人は逃げ出しそうな感じがするが、それはなかったという。
この三洋時代の思想、技術を持ったグループが維持されたことは大きい。
「エアウォッシュ」はなぜ、断続的に開発されたのか?
「エアウォッシュ」とは、水ではなく、気体で臭い、汚れを落とす機能。洗濯は、水に汚れを移動させキレイにする行為であるが、気体だと汚れを移動させることができない。このため、水ほどは汚れを落とすことはできないが、水にあまり親和性のない衣類、帽子などをケアしたい時に便利な機能だ。
気体は「オゾン」を使用。酸素原子3つからなるオゾンは、原子2つからなる酸素分子と違い極めて安定が悪く、反応性が高い。臭い分子を分解したり、ある程度の汚れなら分解することができるのはそのためだ。
またオゾンはある濃度を越すと、その反応性故、毒として機能する。その位反応性が高いわけだ。洗濯機で使用するときは「密閉空間」を作り出し使用する。
市場導入は三洋時代。2006年のドラム式より導入されている。
「アクア」製品としては2012年1月に発売した縦型洗濯機 「AQW-TJ900A」およびドラム式洗濯乾燥機 「AQW-D500」。新会社の一号製品はブランド力なし、イメージなし。しかも、ここで失敗すると後がないということで、持てるモノ全部を搭載させる。こうして発進した「アクア」だったが、数年後のモデルから、暫く「エアウォッシュ」は搭載されなくなる。なぜであろうか?
その理由は、ハイアールの生産思想による。ハイアールの考え方は松下幸之助の水道哲学に近い。世界どこでも作ることができる洗濯機を基準にし、それのパーツを一部いじることによりそのエリアのニーズにより合わせる方法をとる。
それは日本でも同じ。ただし、「エアウォッシュ」は例外だった。オゾンを使用するため、そのままだとステンレスでもサビてしまう。つまり耐久性が著しく落ちるのだ。パーツ一つならともかく、洗濯槽を使う「エアウォッシュ」は、かなりのパーツ変更が必要。機能以上にお金がかかるのだ。
さらに加えると、海外は日本より毒物に対する関心が高い。ハイアールは各国研究所スタッフを集め、意見交換を行うそうだが、そこでもオゾンは支持が得られなかったそうだ。
そして、2021年、ドラム式洗濯乾燥機「AQW-DX12M」で、「エアウォッシュ」を復活させた。「まっ直ぐドラム」と言われるシリーズだ。使われているのは、スチームと温風。衣類スチーマーと同じ原理だ。2023年で2代目。
オゾンを使わない安全な「エアウォッシュ」は、世界のいろいろなところで採用されるかもしれない。その場合のブランドはハイアール。世界シェアトップなので、洗濯機のイメージを変える可能性さえある。