2024年12月6日(金)

日本の医療〝変革〟最前線

2023年4月5日

 作家の大江健三郎、ファッションデザイナーの花井幸子、エリザベス女王、建築家の磯崎新、歌舞伎の坂田藤十郎、政治家の中曽根康弘、俳優の高島忠夫――。

 亡くなった内外の著名人だが、実は死の迎え方に共通点がある。いずれも老衰の結果の死、つまり死因が老衰死である。

(Ralf Geithe/gettyimages)

 老衰とは何か。広辞苑によると「老いて心身の衰えること」とある。従って「老い」のゴールが老衰死となる。厚生労働省は、医師向けの「死亡診断書記入マニュアル」で「老衰死」を「高齢者で他に記載すべき死亡原因がない、いわゆる自然死の場合」と定義している。

 医師が患者の死を確認後に記すのが死亡診断書。死因となった病名を書く。そのほとんどは、がんや肺炎、脳梗塞などが記される。

 だが、老衰は病名ではない。心身の細胞が衰弱して生命が尽きるのが老衰死。嚥下や消化機能が衰えて食欲が減退し、睡眠時間が長くなる。脱水・糖分不足で脳機能が衰え、呼吸停止・心停止に至る。脳内モルヒネと言われるβエンドルフィンとケトン体が出てきて、鎮静、陶酔効果を発揮し枯れるように穏やかに亡くなるとされる。他の生物と同様に、自然に命が消えていく。

 これと対極を成すのが水分や栄養、酸素を人工的に送り込む延命治療を続けたうえでの死である。胃瘻や経鼻などの経管栄養、人工呼吸器などが施される。管(チューブ)だらけになり、「スパゲティ症候群」とも呼ばれる。

 「死を一刻でも遅らせるのが医療の使命」と大学教育で叩き込まれ、延命治療に邁進する医師は多い。死の絶対否定は信仰に近い。

コロナ禍による増勢

 時代の流れは老衰死(自然死)に向かいつつある。まず、死亡原因の推移を見てみよう。この70年間の日本人の死者数と老衰死数の変遷をグラフにすると、2007年を底に老衰死の近年の急増ぶりが目を引く(図1)。

 21年の死因の第1位は相変わらずがんである(図2)。1981年に1位となって以来40年以上も保持している。第2位は心不全や急性心筋梗塞、心筋症などの心臓に関わる病気で心疾患としてまとめられる。2021年は21万4623人で14.9%を占めた。


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