2025年4月22日(火)

家庭医の日常

2024年12月1日

消化性潰瘍とは

 消化管は、口から食べたものが通過し、消化され、栄養と水分が体内へ吸収されて、その残りを大便として肛門から排出する働きをもつ一連の管状の臓器である。のど元の食道から始まり、その下が胃。そしてその次に十二指腸がある。胃と十二指腸の壁の構造は、管の内側から外側へ向かって粘膜、粘膜下層、固有筋層、漿膜(しょうまく)下層、漿膜からなる層構造をしている。

 何らかの原因で胃または十二指腸の粘膜に傷が生じて臓器の壁のより深い層(粘膜下層または固有筋層)まで病変が広がったものが、胃潰瘍と十二指腸潰瘍である。両者を合わせて消化性潰瘍と呼んでいる。

 消化性潰瘍の典型的な主症状は、キリキリするような、または焼け付くような、断続的な、他の部位へ放散しない、みぞおちの痛みである。胃潰瘍患者では、痛みは食事によって悪化することが多い。十二指腸潰瘍患者では、痛みは空腹(食後2~3時間または夜間)で悪化し、食物または制酸剤(胃液を中和して胃の粘膜を保護する薬)によって緩和することが多い。その他、腹部膨満、吐き気、少量の食事ですぐに満腹になってしまうこともある。

 ただ、症状は患者により多様であり、コンピューターによる診断支援ツールを使用しても消化性潰瘍と器質的な異常を認めない機能的な病気の症状とを適切に区別できなかった、というシステマティック・レビューもある。今後のAIの高性能化により、どこまで診断能力が向上するだろうか。

 古来、胃や腸の不調は人を悩ませてきた。江戸時代の本草学者(現代で言う薬学者)・儒学者、貝原益軒(1630~1714年)が83歳の時にあらわした『養生訓』は、健康で幸福に生きる(現代的に言えば「ウェルビーイング」)ための覚書であるが、そこには胃腸から健康になるための「飲食」の心得について2巻を費やすぐらい重要なものとして扱われている。

 2024年1月の『家族ががんと診断されたら 付き合い方を家庭医が解説 かける言葉は?どう介護するか?勝ち負けのない生き方』でも紹介した黒澤明監督作品の映画『生きる』(1952年)でも、胃腸の症状に悩む患者たちがリアルに描かれている。胃がんに侵された主人公が、医師によって与えられた偽りの病名が「胃潰瘍」だった。

消化性潰瘍のリスク要因の一つ「ピロリ菌」

 消化性潰瘍を起こしやすくするリスク要因はいろいろあるが、中でも2大リスク要因と呼べるのが、ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)の感染と非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)の使用である。日本の研究では、消化性潰瘍患者の約半数がこの2つの要因であったことを示している。近年ピロリ菌感染は減少傾向であるのに対して、NSAIDの使用は増加している。

 ピロリ菌は口から感染し、菌は胃の中で生息する。この感染は慢性胃炎、消化性潰瘍、胃がんなどと関連している。多くの場合、小児期に感染すると言われていて、衛生環境によっては家庭内感染も認められる。


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