2024年11月23日(土)

JAPANESE, BE AMBITIOUS!米国から親愛なる日本へ

2024年9月2日

 「がん克服」のアイデアを実現するため、周囲の反対を押し切って渡米、25年かけて夢を実現しようとしている、がん治療研究者がいる。米国立衛生研究所(NIH)に勤務する小林久隆終身主任研究員だ。小誌では、「新時代に挑む30人」(2019年5月号)の一人として紹介したことがある。このたび、小林氏が日本に帰国すると聞き、研究の進捗状況も含めて、5年ぶりにインタビューを行った。

小林久隆(Hisataka Kobayashi)
NIH/NCI 終身主任研究員
1961年兵庫県生まれ。京都大学医学部卒業。同大学院修了(医学博士)。95年にNIH臨床研究センターフェローとして渡米。98年に帰国し、京大医学部助手を経て2001年に再度NIHにシニアフェローとして勤務。20年からNIH/NCI(米国国立がん研究所)分子イメージングブランチ・終身主任研究員。22年から関西医科大学光免疫医学研究所所長(併任)。著書に『がんを瞬時に破壊する 光免疫療法 身体にやさしい新治療が医療を変える』(光文社新書)。(WEDGE)

 がんは、日本人の2人に1人がかかり、4人に1人が死ぬと恐れられている病気だ。国立がん研究センターによると、22年のがん死亡者数は約38万人(男22万人、女16万人)で、高齢化もあって増え続けている。治療法は年々、進歩してきてはいるが、退治する決め手がないのが現状だ。

第4のがん治療法
近赤外線に注目

 京都大学で放射線医師を経験して治療の現場を見てきた小林氏は、外科手術、放射線、抗がん剤治療に代わる患者の負担が少なくて再発する恐れがなく、元の体で「生還」できる治療法はないか考え続けてきた。

 NIHでがん治療の画像診断技術を研究していた時に注目したのが、正常な細胞を傷つけず、免疫力を落とすことなくがん細胞を死滅させることのできる近赤外線だった。テレビのリモコンなどで使われている人体に無害の光だ。

 必要なのはこの光を利用して細胞を破壊できる化学物質を探すことだった。数えきれないサンプルを試行錯誤してたどりついたのが、東海道・山陽新幹線の車体側面のブルー塗料にも使われている光感受性物質「IR700(フタロシアニン)」だった。水に溶けない物質だったが、改良して溶けるようにして無害なものにした。化学知識の豊富な小林氏の先入観にとらわれない思考の産物であった。

 その治療方法はいたってシンプルだ。がん細胞だけに特異的に結合してくれる抗体(たんぱく質)を使用し、この抗体に近赤外線を当てることによって化学反応を起こす「IR700」を搭載した静脈注射をする。

 この抗体はがん細胞とぴたりとくっつくので、そこを目印に近赤外線を照射すると、組み込まれた「IR700」が反応し、がん細胞を破壊するという仕掛けだ。

 治療法は注射して近赤外線を当てるだけで良いため患者の負担が少なく、抗がん剤服用の際に見られるような激しい副作用はほとんどない。壊れたがん細胞をからだの免疫が認識して新たにより強い免疫ができるため、再発のリスクもない。


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