2024年11月23日(土)

JAPANESE, BE AMBITIOUS!米国から親愛なる日本へ

2024年9月2日

 研究者にとって最高のチャレンジの舞台であるNIHで成果を残せば、世界で認められる。

光免疫療法の光照射に立ち会う小林氏(左)(HISATAKA KOBAYASHI)

日本にも良さがあり
国籍を米国に変えない

 しかし「日本にも良さがあり、国籍を米国に変える気持ちはなく、むしろ、日本人であるという感覚が強い」と、小林氏は断言する。

 「島津製作所、オリンパスなどの研究者の付き合い方は、『契約』ではなく『信義』に基づくものが多く、アメリカとは全く異なり、トップダウンによる会社ぐるみの全面的なサポートは研究に大いに役立ちました。光免疫療法をベンチャー企業(楽天メディカル)にライセンスし、資金を得ることができて、研究を臨床へと進められた」と日本企業の人材や資金面での援助、共同研究が大きな助けになった点は感謝しているという。

 22年には大阪府枚方市にある関西医科大学に光免疫療法の研究所が設立され、所長(併任・無給)に就任した。これまではNIHにしかこの治療法の研究ラボがなかったが、関西医科大学に新たな研究拠点ができることで、NIHのラボで共に研究した若い研究者が、日本に戻ってこの拠点を使って研究を進め、臨床との融合ができるメリットがある。

 現在、日米だけでなく、アジアや欧州の医療機関でもこの治療法のさまざまな治験が行われている。米国では、手術の前の術前療法として光免疫療法を取り入れようとする動きもあり、世界に向けての手応えを感じているという。

 今後は、ほかの部位のがんに適用できる抗体を見つけて、光免疫療法の適用範囲を拡大したい思いが強い。食道がん、胃がんの治験も進んでいる。「次は患者数の多い前立腺がんにも取り組みたいです」と話し、いくつかの領域において日本で創薬を行い、NIHで治験を進めようとしている。新しい治療方法を普及させるためには、数年間という時間と多くの資金が必要になる。

 日本とNIHの良い点を生かして研究を加速し、将来的には光免疫療法をすべてのがん治療にまで対象範囲を拡大して、がんで亡くなる人の命を救ってもらいたい。

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Wedge 2024年8月号より
JAPANESE, BE AMBITIOUS! 米国から親愛なる日本へ
JAPANESE, BE AMBITIOUS! 米国から親愛なる日本へ

コロナ禍が明けて以降、米国社会で活躍し、一時帰国した日本人にお会いする機会が増える中、決まって言われることがあった。 それは「アメリカのことは日本の報道だけでは分かりません」、「アメリカで起こっていることを皆さんの目で直接見てください」ということだ。 小誌取材班は今回、5年ぶりに米国横断取材を行い、20人以上の日本人、米国の大学で教鞭を執る研究者らに取材する機会を得た。 大学の研究者の見解に共通していたのは「日本社会、企業、日本人にはそれぞれ強みがあり、それを簡単に捨て去るべきではない」、「米国流がすべてではない」ということであった。 確かに、米国は魅力的な国であり、世界の人々を引き付ける力がある。かつて司馬遼太郎は『アメリカ素描』(新潮文庫)の中で、「諸民族の多様な感覚群がアメリカ国内において幾層もの濾過装置を経て(中略)そこで認められた価値が、そのまま多民族の地球上に普及する」と述べた。多民族国家の中で磨かれたものは、多くの市民権を得て、世界中に広まるということだ――


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