病気や症状、生活環境がそれぞれ異なる患者の相談に対し、患者の心身や生活すべてを診る家庭医がどのように診察して、健康を改善させていくか。患者とのやり取りを通じてその日常を伝える。
<本日の患者>
K.W.さん、53歳、男性、観光物産会社社長。
「先生、いよいよ自分が年寄りになっちゃったって実感しています」
「え、K.W.さん、どうしたんですか。まだ僕よりずっと若いじゃないですか」
「いや、長い付き合いの先生だから話せるんだけど、だんだん尿が出にくくなってきたんですよ。それに夜中もトイレ行くしね。以前先生に相談して、まだ様子をみようって保留にしてた前立腺がんの検診、そろそろ受けた方が良いのかなーって思うんだけど」
「そうですか。前立腺がんが心配なんですね。実は、K.W.さんの年齢では、がんとは関係ない状態で尿の症状が出ることも多いんです。じゃあ、もう少し症状を詳しく聴かせてもらって診察しましょう」
K.W.さんは、2021年8月の『 患者に「がん検診を受けたい」と言われたら?』に登場した観光物産会社社長である。会社の部下たちから前立腺がん検診を勧められたけれど、前立腺がんの性質、そして検診の不確実性についての情報を私から聞いて、検診はまだせずにいたのだ。
それ以外の彼のメインの健康問題は高血圧で、心血管系のイベント(心臓発作や脳卒中など)を起こさないように、3カ月ごとの定期診察を継続しつつ、他にもさまざまな健康上の気がかりを相談している。
でも、排尿で困ったということをK.W.さんから私が聴いたのは、今回がはじめてだ。そして、K.W.さんがいつになく冴えない表情なのが気になった。