2024年12月22日(日)

Wedge REPORT

2023年2月27日

 「トイレもコンビニもない途上国の僻地で、急に月経になって困った、といった海外出張中の月経トラブルは商社で働く女性にとっては〝あるある〟だ」と丸紅フェムテック事業チームの野村優美チーム長は語る。デスクワークが多い小誌記者自身も、長時間の会議中に大量出血し、椅子を汚していないかヒヤリとしたり、鎮痛剤の効果が切れて痛みに耐えながら議論をし続けた経験がある。

 だが、こうした女性の苦悩は、「月経」という言葉を知っているだけではわからないことだ。女性は月経に限らず、妊娠、更年期障害など、年代やライフステージごとにさまざまな「女性特有の健康課題」を抱えている。

 そのソリューションとして近年、注目されているのが「フェムテック」である。フェムテックはFemale(女性)とTechnology(テクノロジー)を組み合わせた言葉だ。デンマーク人の女性起業家イダ・ティン氏が2010年代、自身の開発した月経管理アプリへの投資を募る際、当時男性ばかりだった投資家やメディアの注目を集めるために「新たな市場」を表す言葉として提唱したと言われている。

 日本では主に女性が抱える健康課題をテクノロジーで解決する製品やサービスを指すが、その対象範囲は広い。

 経済産業省で「フェムテック等サポートサービス実証事業」を担当する経済社会政策室の村山恵子室長補佐は「フェムテックはテクノロジーを用いて健康管理やトラッキングをするような『テック系』のものだけに限らない。吸水ショーツや月経カップなどの『フェムケア』製品や、『オンラインサービス』『簡易検査キット』『医療支援』など、女性特有の健康課題の解決を目指すものは広い意味で『フェムテック』と呼んでいる。さまざまな製品やサービスが出ることで女性の健康に目が向けられることが大切だ」と話す。

 実際、日本でも数多くの商品が生まれており、経産省はこのフェムテックによる経済効果を25年時点で年間2兆円とも推計する。

 昨今のフェムテックブームについて、イーク表参道の産婦人科医である高尾美穂氏は「ビジネス目線で生まれた言葉であるため、製品の安全性や効用については医学的な見地から慎重な判断が必要だ」としつつも、「フェムテックという言葉によって、女性の健康に関する話があらゆるところで挙がるのはありがたいこと。女性が学校では学べなかった自分自身の身体について知るきっかけにもなる」と期待する。

 関係者が期待を寄せる背景には、女性活躍について世界における日本の地位が極めて低いことも関係しているといえるだろう。事実、20年の日本の雇用者総数に占める女性の割合は45・3%にまで向上し、女性の社会進出が進む中、世界経済フォーラム(WEF)が発表している「ジェンダー・ギャップ指数」をみると、22年の日本は世界146カ国中116位であり、主要先進国では最下位だ。また、帝国データバンクによると「女性管理者の割合」も9・4%と政府の目指す30%には程遠く、女性活躍という面で日本は遅れていると言わざるを得ない。

 フェムテックによる女性の健康課題へのアプローチは、このギャップの解消にも寄与するはずだ。

 企業が自社で働く女性たちの活躍を真に推進するのであれば、これまで〝タブー視〟されてきたこの問題にこれまで以上に踏み込まなければならない。

 ただし、単にフェムテックを導入すればいいという話ではない。女性活躍が叫ばれる中、日本企業も女性のための〝制度〟は整備してきた。問題はその制度を活用できていないことだ。

 例えば「生理休暇」。休暇制度として、産休や育休以外にも生理休暇を設けている企業は少なくない。だが、生理休暇を請求した女性労働者の割合は20年の厚生労働省の調査では、たった0・9%と惨憺たるものなのである。

 ただ〝流行り言葉〟にのっかって、制度を設けるだけでは「生理休暇」の二の舞いになりかねない。


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