2024年12月22日(日)

Wedge REPORT

2023年1月27日

 2023年1月23日、加藤勝信厚生労働大臣が閣議後記者会見で発出した、ある「事務連絡」の通知がニュースを賑わせた。「使用済みおむつについて、保育所内等(保育所、認定こども園など)での処分を推奨する」というものだ。

 日本の一部の保育施設では、保育中に乳幼児が排泄したおむつを保護者が持ち帰り、自宅で家庭ゴミとして廃棄している。特に公立施設に根強く残る慣習だ。

(Liudmila Chernetska/gettyimages)

 各児童の汚れおむつを間違いなく渡すために、保育施設では児童ごとに専用ボックスを設置したり、使用予定のおむつ1枚1枚への記名を保護者にさせる。保育士は使用後のおむつを児童ごとに保管、もしくは夕方の帰宅前に児童ごとに分配するなどの作業をせねばならない。

 1日分の汚れおむつはズッシリ重く、夏場は保管中から強烈に臭い、排泄物の受け渡しにはノロウィルスなどの感染症のリスクもある。その作業負担と衛生的リスクに対し、保護者・保育士・医療従事者・議員らから、施設での廃棄を求める声が継続的に上がってきた。それでも変わらない施設や自治体の背中を押すべく、厚生労働省から「全国の保育所等で廃棄をするように」との通知が出された、というわけだ。

 ここまで読んで、思わず目を疑った読者もいるだろう。排泄物を受け渡す? それにこんな手間をかけている? 厚労省が通知を出さねばならないほどのことなのか?

 その驚きは心底、分かる。筆者はこの「使用済みおむつの持ち帰り」をかれこれ7年ほど注視し改善に向けた発信をしてきたが、知った当初はやはり度肝を抜かれた。驚くのが当たり前の、一般的な感覚だと今も思う。

 日本では高齢者福祉施設や病院でもおむつを用いるが、家族に持ち帰りはさせない。自明のこととして、施設側がまとめて廃棄している。しかし子育てとなると話は変わるのだ。一般社会の「当たり前」が通じない、おかしな状況が常態化してしまうのである。

 この「当たり前の通じなさ」と「おかしな状況の常態化」がコンボになった「保育所等の使用済みおむつ持ち帰り」は、〝無理ゲー〟と言われるハードな日本の子育て環境を、端的に象徴している。今回の厚労省通知が注目を集めているのは、その無理ゲーの構造の一部に光を当て、全国に知らしめる機会となったからだ。


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