2024年11月21日(木)

Wedge REPORT

2023年1月27日

おかしな慣習が生まれ
今日まで続く理由

 保育所等からの使用済みおむつ持ち帰りの慣習がいつ、どのように始まったのか、はっきりとは分からない。一説によれば、紙おむつが普及する前、各家庭から布おむつを持参し、自宅に持ち帰って洗濯していた名残と言われている。紙おむつの普及後、保育所等は「布おむつと同様に保護者に持ち帰らせる」システム維持派と、「使い捨てなのだからその場で捨てる」システム改正派に分かれた。傾向として民間施設はシステム改正派が多く、公立施設は維持派が多い。そしてその併存状態は、今日も続いている。

 この併存の背景には、日本の地方自治の原則がある。児童福祉施設である保育所は基礎自治体、いわゆる市町村の管轄だ。公立施設は市町村が事業者として担い、その仕組みと運営は市町村によって変わる。保育事業には全国統一のルールとして保育士資格保育所保育指針設備・運営基準はあるが、おむつ処理に関しては規定がない。かろうじてあるのは、「使用済みおむつは事業系一般ゴミとして処分してよい」「その処分費用は国支給の運営費(公定価格)から出してよい」の2点だけだ。

 しかも事業系一般ゴミの回収方法や頻度は、各自治体のゴミ行政によって異なる。持ち帰りを無くして保育施設から一括回収するには、回収の頻度や回収までの保管場所、追加のゴミ処理代を捻出する運営費の配分を、自治体の状況に合わせて見直さねばならない。その金銭的・物理的・心理的な難易度も自治体によってさまざまで、それが併存状態の続く要因でもあった。

 しかし仕組みや状況は自治体や施設によって異なっても、持ち帰りのシステムが保護者と保育士の負担でカバーされていることは、全国どこでも変わらない。これまで保護者や保育士が持ち帰りの廃止を訴えても、自治体の多くは「現状維持」と回答し、両者のマンパワーに頼ってきた。変わらなさに業を煮やして国への対応を求めれば、国は「保育所等は基礎自治体の管轄。地方自治の原則のもと、国は自治体にお任せする」と返すのが通例だった。

「子どもの健康状態把握」が
システム維持派の大義名分に

 持ち帰り慣習を変えない施設や自治体が、理由として定型文のように使ってきた表現がある。それは「保護者が持ち帰ったおむつで排泄の状態を確認し、子どもの健康状態を把握するため」というものだ。

 だがこれは、子どもの健康状態を把握する手段としても、感染症対策面からも、納得し難い論法だ。汚れおむつを手渡す以外でも排泄状況は伝達できるし、下痢便であればなおのこと、感染源と疑われるおむつはすぐ密閉して廃棄せねばならない。

 しかしわが子を託す施設側・自治体側にそう言われてしまえば、反論できる親は多くはない。保育所の枠は常に競争率が高く、待機児童問題の中で預け先を得た親たちは、「預かってもらえるだけありがたい」と、口をつぐむよりなかった。中には持ち帰りを肯定し、「わが子のおむつ換えが適正に行われている証拠」と、安心材料にする親たちもいた。

 そして子どもは、あっという間に育つ。おむつをつけて保育施設に通うのは多くの場合、長くても3年だ。保護者からの持ち帰り慣習への問題提起が各地で起こり、波のように繰り返し寄せては引きながらもなかなか全国的な改善に結び付かなかった理由には、各世帯でおむつを要する期間が限られていることもあった。


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