2024年11月21日(木)

Wedge REPORT

2023年1月27日

風向きを変えた
SNSと報道と団体の力

 そんな「おかしな状況の常態化」に変化が起こったのが、17年頃。Twitterを軸としたSNSでおむつ持ち帰りの弊害が保護者らによって発信・拡散され(手前味噌ながら、筆者もその一端を担った)、施設や自治体次第で「持ち帰り」と「施設での廃棄」がまちまちに併存していることが明らかになったのだ。

 それまでこの問題の議論は保育施設や自治体の範囲で留まり、持ち帰りにしろ施設での廃棄にしろ、保護者の多くは「自分のケースが世間の常識」と考えていた。しかしそれが実は常識でもなんでもなく、在住自治体や割り振られた保育所によって、半ば運次第で変わるものだったのだ――。

 そうした保育施設・自治体格差がSNSを通じて広く認知されるとともに、出生数の低下による少子化問題、保育士の労働問題と相まって、日本の子育て環境のハードさを物語る事象として「おむつ持ち帰り問題」への関心が高まり、メディア報道が急増。市町村議員たちの働きかけも活発化した。それから数年をかけて、東京都をはじめとした日本各地の自治体で、持ち帰りの廃止が進んだ。

 21年には、子育て環境の改善を企業理念に保育所運営やおむつのサブスクサービスを手掛けるBABYJOB株式会社(大阪市淀川区)が、「保育園からおむつの持ち帰りをなくす会」を立ち上げた。翌22年には全国でおむつ持ち帰りのある自治体を調べて公表するなど、団体ならではの力を発揮。関東に比べて関西の自治体で持ち帰り慣習が多い傾向が、数字で明らかになった。

 BABYJOB社の調査発表以降、京都市や岡山市などの大都市でも、施設での廃棄への切り替えが続出。SNSと報道、団体の力が重なり、地域散発的だった案件が全国的な繋がりのもとで広がり、改善のスピードを上げたのだ。

加藤厚労大臣も
問題の当事者だった

 BABYJOB社は全国の実態調査と同時に、「持ち帰りをなくすために、厚労省に全国通知を求める署名」を募り、1万6000筆の署名を集めた。22年9月、調査結果とともに署名・要望を加藤厚労大臣に提出。大臣は実態調査を約束し、それが今回の通知に繋がった。

 署名提出にあたりBABYJOB社を支援した寺田静参議院議員は、かねてからこの問題を厚労省に訴えてきた一人だ。これまでは前述のように、地方自治の原則を根拠とした定型文回答が続き、厚労省の関心は薄いと感じてきた。それだけに、「正反対」とも言える加藤大臣の関心と行動は、嬉しい驚きだったと話す。

 「大臣ご自身が4人のお子さんの父親で、おむつ持ち帰りの当事者でした。ご自身の問題意識から迅速に行動していただけたのが大きかったですね。今回の通知と参考資料によれば、この要望の翌月である10月には調査が行われており、大臣の強い意気込みが感じられます。大臣の指示のもと、迅速に検討が進められていたことが読み取れます」(寺田議員)

 声を上げた保護者たち、署名と全国調査を形にしたBABYJOB社、大臣への署名提出に協力し幾人もの議員が関わった過程は、寺田議員のブログにて報告されている。 


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