「1年前から通う常連客に『ここって何屋さんなの?』と聞かれてしまうこともあった」
白衣を身に纏い、笑顔でそう話すのは髙須賀洋徳さん。「薬局ランタン千歳烏山店」(東京都世田谷区)で働く薬剤師だ。
都内11店舗で調剤薬局などを経営する田辺薬品(東京都府中市)が2020年にオープンした同店は、数ある薬局の中でも異色の存在感を放つ。軒先には、独自に見つけてきた契約農家から毎日届けられる新鮮な野菜が並ぶ。温かみのある照明と木目調のインテリアに彩られた店内には、カフェのようなゆったりとした空間が広がる。
店内の棚に目をやると、「冷え」「免疫力」などの悩みに応じた健康食品やサプリメントが陳列されており、冒頭のように薬局であると知らずに入店してしまう人がいるのも無理もない。
「『処方箋がないと薬局に入れない』と、敷居が高く感じてしまう人もまだまだ多い。そういったイメージを払拭し、ただ薬を渡す〝以上〟のコミュニケーションを通じて、患者と信頼関係を築いていきたい」
髙須賀さんがそのような考えに至ったのは、製薬会社の営業担当(MR)だった前職の経験からだ。医者と接することがほとんどのMRに比べ、薬剤師として患者の悩みに直に働きかけ、感謝の言葉を受け取ることができる今の仕事にやりがいを感じるという。
同じく、他分野であるIT業界から転身し「患者という特定の顧客しか訪れず、顧客接点が少ない薬局経営の仕組みを課題に感じていた」という田辺薬品の田辺正道社長と共鳴し、患者とのコミュニケーション活性化に向け、今までの薬局にはないさまざまな取り組みを試みるようになった。
同店では他にも、管理栄養士による無料の栄養相談や、野菜摂取の充足度を測定することができる機器「ベジチェック」による健康サポート、おむつ交換や充電場所の提供など多種多様なサービスを提供している。