2022年11月28日(月)

家庭医の日常

2022年5月25日

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葛西龍樹 (かっさい・りゅうき)

福島県立医科大学 医学部 地域・家庭医療学講座主任教授

1984年北海道大学医学部卒業。北海道家庭医療学センター設立および所長を経て、2006年から現職。英国家庭医学会 最高名誉正会員・専門医(FRCGP)。日本プライマリ・ケア連合学会監事。著書に『医療大転換 ─日本のプライマリ・ケア革命』(ちくま新書)など多数。

病気や症状、生活環境がそれぞれ異なる患者の相談に対し、患者の心身や生活すべてを診る家庭医がどのように診察して、健康を改善させていくか。患者とのやり取りを通じてその日常を伝える。
(tadamichi/gettyimages)

<本日の患者>
R.H.さん、67歳男性、元高校英語教師。

 田に水が張られるこの季節が、私は大好きだ。水田が大きな鏡になって空が映し出される。空の面積が2倍になったようで、いつもより開放感が増す。晴天の日には、青空も陽光も水田に溢れて輝く。

 私は普段から県内各地の診療・教育の拠点にいる家庭医・総合診療専門医を目指す専攻医と指導医を指導して回っているので、季節ごとに各地で素晴らしい景色に出会う。

 雪が深かった冬を越して遅い春の訪れとなった会津地方では、ちょうど今、水田には水が満ちて田植えを待っている。北方にそびえる2000メートル級の飯豊連峰はまだ約8割が雪に覆われているが、その残雪の下では、刻一刻と雪解け水が生まれ、里へ向かって流れ出しているのだろう。

 日本は水が豊かな国だ。これは良きにつけ悪しきにつけで、水は命の恵みになり、農業・工業にも欠かせない。ひとたび水が滞れば経済的にも大きな打撃になる。一方、雨が過ぎれば大災害の元凶にもなる。毎年繰り返される水害や土砂災害を防ぐために、古来日本では森の保全と流域の治水をめぐる人間の知恵と工夫と戦いの歴史が各地にある。

 この森林保全や流域治水は、人体で言えば腎臓の役割に似ている。今回は腎臓の話をしよう。

腎機能の不連続な悪化

 「えっ、また腎臓の数字が悪くなってるんですね。しかもこんなに!」

 「昨年の数字は2年前と比べて大きな変化とは言えませんが、今年は25%を超える低下です。この1年間で体調や生活など何か変わったことはありませんでしたか」

 R.H.さんは、私が示した次のような検査結果の経過を前に驚きを隠せなかった。

・2年前: eGFR 53 ミリリットル(mL)/分(min)/1.73平方メートル(m2) 尿蛋白/Cr比 0.12 グラム(g)/g
・1年前:  eGFR 49 mL/min/1.73m2  尿蛋白/Cr比 0.14 g/g
・2週間前: eGFR 36 mL/min/1.73m2  尿蛋白/Cr比 0.16 g/g

 R.H.さんは、高血圧があり、10年前から私のいるクリニックを受診している。3年前に高等学校教諭(英語担当)を定年退職した。2年前、退職後初の健康診断で腎臓の機能が悪くなっていた。その時のクリニックでの診察と検査の結果、慢性腎臓病(英語ではchronic kidney disease、頭文字をとってCKDと呼ばれる)と診断された。

CKDの診断と重症度分類

 CKDは腎臓の障害や機能の低下が持続する疾患である。日本のCKD患者数は推計約1330万人、成人の約8人に1人がCKDである。進行した場合には末期腎不全となり、透析療法や腎臓移植が必要となる。

 日本透析医学会の年次統計調査によれば、日本の透析患者数は年々増加を続け、2020年末時点で34万7671人である。透析が必要になる原因の疾患としては、糖尿病性腎症(39.5%)、慢性糸球体腎炎(25.3%)、腎硬化症(12.1%)が上位を占めている。CKDはまた、心筋梗塞、脳卒中などの心血管疾患と死亡のリスクを上昇させることが多くの臨床研究で示されている。

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