2023年12月6日(水)

家庭医の日常

2022年2月23日

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葛西龍樹 (かっさい・りゅうき)

WONCA〈世界家庭医機構〉マスター・ファカルティー、福島県立医科大学名誉教授〈地域・家庭医療学〉

1984年北海道大学医学部卒業。北海道家庭医療学センター設立および所長を経て、2006年から福島県立医科大学医学部地域・家庭医療学講座主任教授。2023年退職。英国家庭医学会 最高名誉正会員・専門医(FRCGP)。著書に『医療大転換 ─日本のプライマリ・ケア革命』(ちくま新書)など多数。

病気や症状、生活環境がそれぞれ異なる患者の相談に対し、患者の心身や生活すべてを診る家庭医がどのように診察して、健康を改善させていくか。患者とのやり取りを通じてその日常を伝える。
(Jikaboom/gettyimages)

<本日の患者>
T.K.さん、40歳男性、イベント会社営業部次長。

「今日、T.K.さんが先生の外来予約してますね」

「そうなんだよ」

「また挑戦してくれると良いですね、禁煙」

「そうだといいね。また笑顔で接してね」

「もちろんですよ!」

 今朝、クリニックの診療開始前のミーティングの後で、外来の主任看護師Cさんとこんな立ち話をした。

 T.K.さんは1年前に、私たちの家庭医クリニックを受診して、禁煙について相談し、ニコチンパッチを使用して禁煙に成功していた。しかし、3カ月前からまた喫煙する習慣に戻ってしまったという。そのことで今日は相談があると予約をとってくれたのだ。

タバコの健康への悪影響

 喫煙が習慣になるのは、タバコに含まれるニコチンによって体内で放出されるドパミンが脳に快感を起こさせるからだ。そのため、知らず知らずに身体的にも心理的にもニコチンを欲してしまう。

 「とりあえず」「何はなくとも」、といった感じで、タバコを吸うという行動が(ある意味儀式的に)習慣として染み付いてしまう。ニコチン依存症と言われる所以である。

 ただ、その習慣となった喫煙によって引き起こされる健康への悪影響は深刻だ。喫煙に起因する死亡は、がん(34%)、心血管系疾患(32%)、または呼吸器疾患(21%)が主要なものである。

 喫煙に関連するがんは、肺、口腔、咽頭、喉頭、食道、胃、肝臓、膵臓、腎臓、膀胱、子宮頸部、大腸、直腸、そして急性骨髄性白血病と広範囲におよぶ。肺がんの90%が喫煙に起因し、慢性閉塞性肺疾患(COPD)での死亡の80%は喫煙に関連するという報告もある。

最新のデータが整備されていない

 この機会に、家庭医として日頃不自由に感じていることについても語っておきたい。それは、日本では、健康に関連することに限っても、アップデートされた統計が整備されていないということである。


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