<本日の患者>
Y.S.さん、49歳女性、生花店主。
「先生、新型コロナウイルスのワクチン接種の3回目、した方が良いでしょうか」
「追加接種ですね。悩みます」
「先生も悩むんですね。私もいろいろわからないことが多くて……」
「そうなんです。つい2日前に発表された海外の一流医学雑誌のニュースにも、新型コロナの免疫を―あ、感染を防御することです―それを完全に獲得するためにどういう方法が良いのかは結局のところまだわからない、と書かれているんですよ」
「そろそろ先生の得意なセリフが出てきそうですね」
「え、何のことでしたっけ」
「不確実性に耐えなさい、ですよ」
「あ、覚えてくれていたんですね。そうです、それです。今回も不確実性に耐えないといけません」
8年前のある日
ご主人と街で人気の花屋さんを切り盛りしているY.S.さんには、今でこそこんな感じで健康について気がかりなことを率直に相談してもらっているが、最初にお会いした時は深刻だった。
東日本大震災から2年8カ月後の2013年11月のある日、Y.S.さんは、当時14歳で中学2年生だった娘のEちゃんを連れて心配そうに私の診察室に入ってきた。
Eちゃんが「1週間前から喉が痛くて声がかすれる」という訴えだったが、通常の身体診察ではEちゃんの声が若干ハスキーである以外に特に異常はなかった。こうした場合、家庭医が次にすることは、症状が始まった前後で生活の様子に何か変化がなかった尋ねることである。
私の質問にEちゃんは、時々上目遣いで母親のY.S.さんの表情を窺いながら答えた。
「中学では合唱部に入っていて……年末に発表会があるので……練習が大変なんです」
(そうか。きっと合唱の練習で喉を使い過ぎたことが原因だろう)――危うく私はそう結論づけようとしたが、次にY.S.さんの言ったことを聞いて驚いた。
「実は……先週県民健康調査の甲状腺検査の結果が届いて……異常があるって書いてあるんです。Eは本当に……甲状腺がんになっちゃったんですか」