家庭医の日常

2021年12月2日

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葛西龍樹 (かっさい りゅうき)

福島県立医科大学 医学部 地域・家庭医療学講座主任教授

1984年北海道大学医学部卒業。カナダ家庭医学会認定 家庭医療学専門医課程修了 (ブリティッシュ・コロンビア大学)。北海道家庭医療学センター設立および所長を経て、2006年から現職。英国家庭医学会 最高名誉正会員・専門医(FRCGP)。日本プライマリ・ケア連合学会監事。著書に『医療大転換 -日本のプライマリ・ケア革命』(筑摩書房)、『スタンダード家庭医療マニュアル』(永井書店)、『家庭医療 ~家庭医をめざす人・家庭医と働く人のために~』(ライフメディコム)、監訳に『マクウィニー家庭医療学(上巻・下巻)』(ぱーそん書房)、『医師は患者をこう診ている』(河出書房新社)、『患者中心の医療の方法 原著第3版』(羊土社)など。

病気や症状、生活環境がそれぞれ異なる患者の相談に対し、患者の心身や生活すべてを診る家庭医がどのように診察して、健康を改善させていくか。患者とのやり取りを通じてその日常を伝える。
(geargodz/gettyimages)

<本日の患者>
Y.S.さん、49歳女性、生花店主。

「先生、新型コロナウイルスのワクチン接種の3回目、した方が良いでしょうか」

「追加接種ですね。悩みます」

「先生も悩むんですね。私もいろいろわからないことが多くて……」

「そうなんです。つい2日前に発表された海外の一流医学雑誌のニュースにも、新型コロナの免疫を―あ、感染を防御することです―それを完全に獲得するためにどういう方法が良いのかは結局のところまだわからない、と書かれているんですよ」

「そろそろ先生の得意なセリフが出てきそうですね」

「え、何のことでしたっけ」

「不確実性に耐えなさい、ですよ」

「あ、覚えてくれていたんですね。そうです、それです。今回も不確実性に耐えないといけません」

8年前のある日

 ご主人と街で人気の花屋さんを切り盛りしているY.S.さんには、今でこそこんな感じで健康について気がかりなことを率直に相談してもらっているが、最初にお会いした時は深刻だった。

 東日本大震災から2年8カ月後の2013年11月のある日、Y.S.さんは、当時14歳で中学2年生だった娘のEちゃんを連れて心配そうに私の診察室に入ってきた。

 Eちゃんが「1週間前から喉が痛くて声がかすれる」という訴えだったが、通常の身体診察ではEちゃんの声が若干ハスキーである以外に特に異常はなかった。こうした場合、家庭医が次にすることは、症状が始まった前後で生活の様子に何か変化がなかった尋ねることである。

 私の質問にEちゃんは、時々上目遣いで母親のY.S.さんの表情を窺いながら答えた。

「中学では合唱部に入っていて……年末に発表会があるので……練習が大変なんです」

 (そうか。きっと合唱の練習で喉を使い過ぎたことが原因だろう)――危うく私はそう結論づけようとしたが、次にY.S.さんの言ったことを聞いて驚いた。

「実は……先週県民健康調査の甲状腺検査の結果が届いて……異常があるって書いてあるんです。Eは本当に……甲状腺がんになっちゃったんですか」

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