2024年12月22日(日)

ディスインフォメーションの世紀

2021年11月30日

 SNSなどのコミュニケーション手段の社会的浸透により、これら手段を用いて流布される「偽情報(ディスインフォメーション)」が民主主義の脅威となっており、ディスインフォメーション対策の重要性などを訴える国際的な議論や民主主義の価値観を共有する国や地域間での連携を模索する動きが活発化している。それは、偽情報が国民一人ひとりの生活や生命を脅かす危険を孕んでいるからに他ならない。

(oatawa/gettyimages)

 ディスインフォメーションは、政治的・経済的利益を得るため、意図的に大衆を欺くことを目的とし作成された虚偽または誤解を招く情報を指す。これを使ったキャンペーン(ディスインフォメーション・キャンペーン)は公共に害を与える活動であり、民主的な政治や政策決定過程に対する脅威であり、ハイブリッド戦の一部としても知られる。

米国民の怒りや暴力を焚き付けた

 最近の事例として、2021年初頭の米国ワシントンでの議会襲撃事件では、20年の大統領選挙結果に関するディスインフォメーションの拡散が米国民の怒りや暴力を焚き付け、襲撃につながったとして問題となった。

 また、新型コロナウイルス感染症の世界的蔓延を機にウイルスやワクチンに関するさまざまなディスインフォメーションが世界中に広がり、各国による感染症拡大阻止の努力を妨害し、結果として各国国民の生命や生活を脅かしているとして、世界的に注目されるようになっている。バイデン大統領は、「フェイスブックなどの対応は人々の命を奪っている」とまで発言している。

 他国による特定の国の社会に対するディスインフォメーション・キャンペーンについては、ロシアの工作がよく知られる。14年のクリミアなどに対する介入戦略をはじめ、16年の米大統領選挙では、米有権者向けにディスインフォメーションを拡散したほか、クリントン候補を不利にするために民主党のアカウントへの不正侵入、電子メールをリークするなどし、選挙介入した疑惑がもたれた。

「動物園からライオンが逃げた」日本での身近な事例

 日本は、欧米諸国と比較し、海外からのディスインフォメーション・キャンペーンが国内で深刻な影響を及ぼした経験に乏しい。しかし、これまで日本国内でもデマなどが拡散され、度々問題となってきた。

 災害時は特に顕著で、例えば11年の東日本大震災では、コスモ石油千葉製油所のガスタンク爆発事故をきっかけに「有害物質を含んだ黒い雨が降る」といったデマが、16年の熊本地震では「動物園からライオンが逃げた」といったデマが各々拡散したが、こうした災害時のものは政治的・経済的利益が目的でない場合が多く、ディスインフォメーション・キャンペーンと性質を異にするため、デマと称されるに止まる。


新着記事

»もっと見る