Wedge REPORT

2021年11月24日

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 鳴り響いた電話を取ると、電話の主は駐日中国公館の職員と思われる人物だった──。

 駐日の海外公館と日常的に関わる企業や組織の一員であれば、驚かないかもしれない。だが、地方議会の運営を担う部局の自治体職員がこうした電話を〝突然〟受けたとすれば、身構えるのは当然ではないだろうか。

 小誌が取材を進めると今年6月以降、駐日中国大使館(以下、中国大使館)や駐大阪総領事館(以下、大阪総領事館)の職員と思われる人物から、複数の地方自治体に電話での接触があったことが分かった。その用件とは一体何か──。

小誌は事実関係やその意図を確認すべく中国大使館(写真)および大阪総領事館に複数日・複数回電話したが、応答はなかった (WEDGE)

 中国の人権問題に関して懸念を抱く県民から請願を受けた兵庫県議会は6月9日、地方自治法第99条に基づき、議会の総意として、地方の意見を国会や関係行政庁に届けるべく「中華人民共和国による人権侵害問題の解決を促し、日本政府に必要な措置を講ずることを求める意見書」を全会一致で採択した。この意見書には、「中国政府による人権侵害は看過できない問題」と記されており、日本政府としてこの問題を調査し、問題が確認された場合は、中国に対し是正に向けた働きかけをするよう要望している。

 こうした意見書が地方議会で採択された後、自治体職員が中国公館の職員と思われる人物からの電話に対応するケースが昨今、増加しているのだ。

 意見書が採択された数日後、兵庫県議会の議会事務局職員は、藤本百男議長宛ての電話を受けた。大阪総領事館の女性副総領事からだった。

 その後、副総領事と実際に会話した藤本議長は「先方は、議長に就任した私への祝辞に続けて、新疆ウイグル自治区における人権侵害は事実無根だ、と抗議してきた」とその内容を証言する。また、副総領事は議長に意見書採択の全権があるかのような前提で主張を続けたという。藤本議長は、議会の「総意」を意見書で提出した旨を説明したが、理解は得られなかった。

「『組織のトップが決めたことが絶対だ』という中国での常識のもと私に主張したのだろう。会議に諮り、議論して決定するという日本の民主主義システムを理解されていなかったのではないか。政治体制の違いを感じた」。藤本議長は当時の心境をこう振り返る。

 埼玉県議会では7月2日、「中華人民共和国による人権侵害問題に対する調査及び抗議等を求める意見書」を賛成多数で採択した。3日後、議会事務局に中国大使館の参事官を名乗る人物からの電話があった。

 電話対応した議会事務局の職員によると、「新疆ウイグル自治区は中国の領土の一部だ。地方議会であっても核心的利益に関わる内政干渉に当たる」との申し入れだったという。さらに、意見書の作成者や賛成討論に立った議員の名を挙げて期数を尋ねるなど、「個人」に関する〝探り〟のような問い合わせを受けたことが分かった。

 名前を挙げられた鈴木正人議員は「名指しまでして公開情報を尋ねてきたのは、『見ているぞ』と牽制する意図があったのではないか。個人への接触を恐れて、同様の意見書の作成を躊躇してしまう議員がいてもおかしくない」とその影響を不安視する。

 同様の意見書は両県議会のほか、歴史的にも中国とゆかりが深い那覇市をはじめ、複数の市区町村レベルの議会でも採択されている。

 中国公館から接触があるのは、人権問題に関する意見書にとどまらない。

 神戸市議会は10月7日、「世界保健機関(WHO)西太平洋地域委員会への台湾のオブザーバー参加を実現するため、必要な措置を求める意見書」を採択した。数日後、大阪総領事館の職員を名乗る人物から神戸市長室に異議を唱える電話があった。その際、11月に神戸市で開催された日台の交流イベントの中止も求めてきたという。

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