Wedge REPORT

2021年11月24日

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「接触」や「発信」が増えるのは
〝焦り〟の裏返し?

「日本において誰が、どこで、どのような人脈をもとにしてこうした意見書を作成し、採択されているのかに多大な関心があるのではないか」。中国側の意図をこう話すのは、アジア政治外交史が専門の東京大学・平野聡教授だ。

 平野教授によれば、最近、大阪総領事館が力を入れていると思われる取り組みの一つにツイッターでの発信が挙げられるという。下図は、大阪総領事館の公式アカウントの発信だ。対立が先鋭化する米国を揶揄した過激な内容で、国の公館の発信として、〝品位を欠いた〟表現が用いられている。

 公共外交に詳しい日本国際問題研究所の桒原響子研究員は、こうした発信の意図について「中国の正統性を対外的にアピールすると同時に、同盟関係にある米国に対する日本国民の好感や信頼を低下させ、日米を離反させる狙いがある」と分析する。また、「こうしたネガティブな発信は受け手に対する理解や配慮を欠いており、対中理解促進のための対外発信戦略としては失敗といえるのではないか。その背景には自国の国力に対する過信があるとも考えられる」(同)と語る。

 小誌の取材に応じた外務省関係者は、「自国の主張を他国の関係者に説明する際に、最も気を使うのが『伝え方』だ。こちらの主張は曲げられない一方で、将来を見据えて良好な関係を築く上では、相手国の国民や関係者に嫌われることは避けなければならず、そのバランスが難しい」と話す。

 前出の平野教授は「中国側に明らかに〝焦り〟が見られる。今後もこうした発信は継続するだろう」と予測する。

 焦りの契機となったのは今年3月、人権侵害を理由に米国や欧州連合(EU)、英国、カナダなどが足並みをそろえて対中制裁措置を発動したことだろう。さらに、米国務省が公表した世界の人権状況に関する報告書において、中国がウイグル族などの少数民族に対して「ジェノサイド(民族大量虐殺)」を続けていると非難するなど、国際社会の中国に対する風当たりは強まった。一方、今年6月の通常国会において、日本政府は新疆ウイグル自治区などにおける人権侵害に関する対中非難決議の採択を見送った。

 SNSにおける発信だけを見れば、大きな問題だと騒ぎ立てるほどのことではないかもしれない。だが、こうした小さな〝予兆〟を見逃さず、他国で起きている事例に鑑みて対策を講じる必要があるかもしれない。

 国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチが今年6月に公表した報告書によれば、豪州の大学で学ぶ中国人学生は「グレート・ファイアウォール(中国のインターネット検閲システム)」を介して講義に参加するため、大学側の講師が中国政府への批判を避ける動きがあるという。実際にあるオンライン講義において、1989年の「天安門事件」への言及が削除された例もあるようだ。また、本土に残る家族が中国当局などからの嫌がらせを恐れ、自らの主張や意見の表明を控える「自己検閲」をしている学生がいるとの指摘もある。

 これらを踏まえれば、中国は自国の主張を他国で浸透させ、正当化するためには手段を選ばないと言えそうだ。中国側からの接触やSNSでの発信は、その一環と捉えることもできる。

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