山口県周防大島から本土側を望むと、濃い緑の中に中国系メガソーラーのパネルが黒々と並ぶ。その続きの山岳に剝き出しの開発地が2カ所、際立つ。規模はさらに大きく、10㌔メートル離れた場所からも見通せる。
すでに海沿いの70㌶以上の森を伐り倒し、大量の土砂を下方に押し広げている。現場では巨大なブルドーザーが20台以上。野球場なら何十面もとれそうな広大な平地を造成中だ。しかしパネルを並べるだけなのに、なぜこれほどまでに大掛かりな開発が必要なのか。
今夏の大雨では、当地の法面(のりめん)に大きな亀裂が入り、海沿いの家々を不安にさせたという。崩落した土砂は雨水とともに水田を濁し、美しい自然海浜に流れ込み、海は赤茶けている。
顔が見えない
事業者たち
現場の勢いと熱気がすごい。
〝ソーラーバブル〟は久々に土木業界を活気づけている。かつて列島改造時代には、国中の農林地が宅地やゴルフ場用地として買われ、平成バブルの頃はリゾート開発に沸いた。
しかし、今回は主役が違う。開発者はグローバルになり、匿名性は高まるばかり。100億円を投じても、早期に設備認定を受けた事業なら、10年以内に元はとれる。合同会社が事業を担うケースが少なくないが、多くは資金調達が終わると、ほどなく消滅し、次なる合同会社や一般社団法人などに継承されていく。
開発許可は政府が後押しするから、事業ハードルは低い。パネル設置は建築基準法の対象外だから地元協議の対象にならない。いったん、経済産業大臣から設備認定を受けると、発電事業はいつ始めてもよい。その時点から20年間にわたり、政府は同じ価格で買い取ってくれる。40円/㌔ワット時(2012年度)は、国際平均価格の倍以上で、こうした〝旨み〟を察知した早耳企業が太陽光発電になだれ込んだ。土地の取得も見込みレベルで認可が下りるから、地上げは後からでよい。
これではまずいと、17年に制度見直しが行われ、買取価格も下がった。20年からは、大規模ソーラーに環境影響評価(アセスメント)が必要になった。
ただ、経済産業省の設備認定がすでに終わり、工事計画の届け出が済んでいればアセスは不要だし、認定時に約束された買取価格は高止まりのままだ。12年度や13年度に発行された設備認定書は「プラチナカード」で「高利回りの金融商品」になっていて、今でも投資目的のファンドが買い直しするほど人気である。
政府は本年6月、「グリーン成長戦略」で全発電量の5~6割を再生可能エネルギーでまかなうとし、太陽光はその主力であるとした。称賛され、増え続けるソーラーに死角はないのか。