政府は本年6月、〈重要土地等調査法〉を成立させ、「600カ所程度の防衛関係施設、原発周辺を想定し土地情報管理に乗り出した」(日本経済新聞、21年8月12日)。こうした動きを歓迎し、「懸念は解消した。措置済みではないか?」と胸をなでおろす方もおられるだろう。
しかし、カムフラージュ手法はますます巧妙になっていて、代表者を日本人名にするなど、外国人の関与を公表していない事例は圧倒的に多く、外国人の関与を特定することは容易ではなくなっている。
新法「重要土地等調査法」の施行(22年春)に当たっては、重要国土の指定に見落としがないよう、適切な運用を望みたい。
洋上風力推進に潜む
港湾占拠という懸念
もう一つ。洋上風力発電への巨大投資の動きも無視できない。
近年特に伸長著しい分野で、1カ所あたりの投資額が何千億円と桁違いだ。お手本は欧米だったが、今や世界最大規模のエリアは中国(江蘇省など沿岸部)に移った。
洋上風力発電の資金調達の主流は、プロジェクトファイナンスになるが、この場合、出資者の全貌や実質の采配者の顔が見えづらい。安全保障の観点からのチェックも手薄になる。数年前のクルーズ船誘致のときのセンスのままではいけない。
しかし残念なことに日本は、海外メーカーのサポートがなければ洋上風力発電を推進できない実情にある。投資面で大半のリスクを取る勢力が海外だとすれば、基地港湾の権益も委ねざるを得なくなるだろう。
豪州北部ダーウィン港(15年)、ギリシャのピレウス港(16年)、スリランカのハンバントタ港(17年)、イタリアのトリエステ港・ジェノバ港(19年)……。
これらの港湾が辿ったプロセスを見ていくと幾通りもある。それぞれの国情に最も沿う形の進出──租借、株式取得、出資、開発委託などによって、中国化が進められている。
今、由利本荘市沖(北側・南側)、能代市・三種町及び男鹿市沖、銚子市沖、五島市沖などが、洋上風力発電の「促進区域」となって沸いているが、基地港湾となる秋田・能代港、鹿島港、北九州港などは、各国港湾の帰趨を先例として心得ているだろうか。
数年後、石狩市沖や西海市江島沖で最長30年の占有許可が出されたとき、一番喜ぶのは誰だろう。
エネルギーの外資化シフトへ
日本が持つべき備え
世界に目を転じると、総じて、エネルギーは「武器」に代わって機能することがある。
14年のウクライナ危機のときが有名だが、ロシアは欧州への天然ガス供給を止めると言い出し、実際止めた。ウクライナへの全面供給停止、ポーランドへの供給2割減がなされた。政治的な対立が起こるとロシアはパイプラインのバルブをいつでも締めるという手段に出ている。
我が国の場合、中東からのシーレーン(海上交通路)を断たれたら、エネルギー供給は壊滅的に低下する。この先、南沙、西沙諸島が〝新勢力〟によって占有され、原油輸送路が閉ざされる懸念は大きくなりこそすれ、その逆はあるまい。
電力についていえば、ここ10年、発電、送電・配電の自由化がしだいに進みゆき、再生可能エネルギー発電の分野では外資系が着実に伸びている。その参入は太陽光にとどまらず、風力、バイオマスの分野へも外資系の進出が目立つようになってきた。
SKY SOLAR JAPAN、WWB、上海電力日本などが有力なプレイヤーだが、それらの企業群は今後、供給シェアをさらに高め、川下(消費者側)へもっと影響力を増していくものと予想される。
こうしたエネルギー部門の外資化シフトを前に、果たして私たちは無思考なままでよいのだろうか。ウクライナで起こったような危機は日本では起こり得ないのか。
ゼロカーボンという目標だけに目を奪われていてはならない。
地球温暖化に異常気象……。気候変動対策が必要なことは論を俟たない。だが、「脱炭素」という誰からも異論の出にくい美しい理念に振り回され、実現に向けた課題やリスクから目を背けてはいないか。世界が急速に「脱炭素」に舵を切る今、資源小国・日本が持つべき視点ととるべき道を提言する。
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