World Energy Watch

2021年9月29日

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山本隆三 (やまもと・りゅうぞう)

常葉大学経営学部教授

住友商事地球環境部長等を経て現職。経済産業省地球温暖化対策技術普及等推進事業審査委員会、東京商工会議所エネルギー・環境委員会委員などを務めている。近著に『電力不足が招く成長の限界』(エネルギーフォーラム)。

 欧州内で電気料金が急騰している。国の電源構成により値上がり額は異なるが、スペインの卸電気料金は、昨年4月との比較では今年9月中旬が10倍以上に高騰している。8月の小売料金は前年同期比約40%上昇した。

 イタリアの小売電気料金は、10月1日から政府の対策なしでは約40%値上がりする。欧州の電気料金上昇は、来年2月頃まで続く可能性があるとみられており、冬季に暖房を取るか食料を取るかを迫られる、欧州内数千万人の〝エネルギー貧困層〟の生活に大きな影響を与える。

(Thinkhubstudio/gettyimages)

 電気料金上昇の原因の一つは、コロナ禍からの回復により電力需要量も上昇する中で、今年前半欧州内で風が吹かず風力発電量が落ち込んだことだ。需要をまかなうため天然ガス火力の発電量が増えたが、燃料の天然ガス価格が急騰している。

 さらに、欧州内で二酸化炭素(CO2)の排出に対し課せられる排出枠価格も、年初のCO2 1トンあたり30ユーロから大きく上昇し2倍になった。天然ガスの使用量が増えれば、CO2排出量、電気事業者の排出枠負担額も増える。電気料金には二重の影響がある。

 欧州内では天然ガス火力依存度が高まったが、原因は脱炭素政策のため主要国が相次いで石炭火力の閉鎖を行い、燃料選択肢が少なくなったからだ。さらに、脱炭素を促進するため欧州委員会(EC)が導入している政策により、排出枠価格が上昇している。ECの拙速な脱炭素政策が招いた電気料金上昇との批判も欧州では聞かれている。「脱炭素の小さな躓き」だと考えてよいのだろうか。

石炭を縮小し、ロシア依存の天然ガスという選択

 欧州連合(EU)ではコロナ禍からの経済回復が進み、昨年落ち込んでいた電力需要量もほぼ2019年レベルまで回復してきた。今年上半期の電力需要量は前年同期比6%増、19年比ではマイナス0.6%になった。需要は回復しているが、上半期は風が吹かず、風力発電設備導入量が6%「増加」したにもかかわらず、風力の発電量は7%「減少」した。

 電力需要が前年比で増加する中で、設備が増えた太陽光、出水に恵まれた水力も供給増を担ったが、天然ガス火力、石炭火力も前年度より発電量を増やした(図-1)。後で詳しく述べるが主要国が設備を削減している石炭火力の発電量には限度があることから、主力を担ったのは天然ガス火力だった。

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