世界の化石燃料から排出される二酸化炭素(CO2)の約4分の1は、輸送部門からだ。航空機、船舶、鉄道、自動車だが、自動車からのCO2排出量が輸送部門の4分の3を占める(図-1)。日本では、ハイブリッド車の比率が高く、また軽自動車など燃費が良い車も多いことから輸送部門からのCO2排出量は、世界平均よりは少し低い19%ほどだ(図-2)。
2030年に温室効果ガスを2013年比46%、2050年に実質ゼロにするためには、輸送部門からの削減が重要になる。欧州連合(EU)では、2030年55%削減を達成するための方針が7月14日に発表され、輸送部門からの排出削減策として電気自動車(EV)導入に注目が集まっているが、削減策は電動化だけではない。
CO2排出削減策は3つ
削減方法は、大きく3つある。一つ目はやはり電動化だ。バッテリーだけで稼働する方法(BEV)と、プラグインハイブリッド(PEEV)と呼ばれる方式があるが、PHEVでは充電が切れた後はガソリン駆動になりCO2が排出されるので、将来は内燃機関自動車と同じく販売禁止対象にする英国のような国もある。
EUでも欧州委員会(EC)が2035年に販売される乗用車からのCO2排出をゼロにする提案を7月14日に行った。現状の1キロメートル(km)当たり95グラム(g)の規制値(『VW問題でCO2排出量にも疑義 欧州で注目高まるEVと日本車』)が、30年に55%減、35年にゼロになる。EV導入を要求しているものではなくゼロにするための技術は問わない前提なので、燃料電池車(FCV)は当然として、植物由来のバイオ燃料100%利用のエンジンも可能になる制度が設けられるかもしれないが、主体はEVになるとみられている。産業と生活には大きな影響を与えることになるだけに、今後欧州議会と理事会での採択を巡り、法制化までにはまだ紆余曲折がありそうだ。
EVを導入する前提は、電源の非炭素化、つまりCO2を排出しない水力、太陽光・熱、風力、地熱などの再生可能エネルギー、原子力あるいはCO2捕捉装置を付けた火力による発電がおこなわれることだ。たとえば、2050年実質排出量ゼロを目指す米国バイデン大統領は、2035年に電源を全て非炭素化する目標を立てている。
二番目は、植物から製造されるバイオ燃料だ。ブラジルではサトウキビ、米国ではトウモロコシから製造されるバイオエタノールがガソリンの代替として利用されている。パーム油、菜種油などから製造されるバイオディーゼルも多くの国で利用されている。植物は成長の過程でCO2を吸収するので、燃焼しても吸収したCO2が大気に戻るだけなので、CO2排出量は増加しない。重い電池を搭載することが困難な航空機、外航船でも利用が進められている。ただ、バイオ燃料を使用するのであれば内燃機関自動車も利用可能になるが、今のエンジンでは100%バイオ燃料利用は難しい。また、土地と水が必要になるため食べ物との競合が指摘されている。熱帯雨林などの伐採による開墾も問題になっている。
三番目は、水素を利用する方法だ。水素を燃焼させても水しか排出しない。トヨタ自動車の「ミライ」がFCVとして有名だが、長距離トラックなどは電池の重量が重くなることから、燃料電池が有望と考えられている。自動車以外に、航空機でも既に英国において試験飛行が行われている。燃料電池利用の鉄道も欧州では広がり始めた。では、FCVが世界で最も多く走っている国はどこだろうか。答えは、日本でも、中国でも、米国でもない。韓国なのだ。