バイオ燃料、水素利用でもいばらの道
欧州主要国が相次いで内燃機関自動車の販売禁止年を決め、ECが提案を行う中でも、ドイツは販売禁止を明確には打ち出していない。その理由は、製造する車が内燃機関からEVに変わると、自動車部品産業を含め自動車関連雇用に大きな影響があるからだとみられている。部品数が少なくなるEVでは組み立て工程が減少し、雇用も30%減少するとされる。
内燃機関自動車を利用するには、燃料を生物由来のバイオ燃料にすれば脱炭素になる。EUは2030年温室効果ガスを1990年比55%削減する目標を持っているが、1990年以降CO2の削減が進んでいない輸送、自動車部門ではバイオ燃料の使用が有力な手段になる。2030年の輸送部門でのバイオ燃料使用目標現状の14%は、7月14日発表の再生可能エネルギー指令改正案の中で2倍以上に引き上げられた(計測方法の変更があったが、旧計測方法に基づく)。EVと合わせバイオ燃料利用によりEUの2030年目標の達成を図る構えだ。
途上国においても、バイオ燃料を輸送部門で利用する計画が立てられている。途上国では自動車台数が大きく増加すると予想されているが、価格が相対的に高いEVの普及は進まないと考えられる。また、充電所の数と設置のスピードも問題になるだろう。パーム油を生産するインドネシアでは、温暖化対策もありパーム油をディーゼルに混ぜることが法に定められ政府補助も行われている。
さらに、電動化が難しい航空機では、バイオ燃料利用による脱炭素も図られる。7月14日発表のEC提案に航空機に持続可能な燃料、水素由来のe-燃料、バイオ燃料の使用を義務付ける新法案が含まれており、現在1%以下の比率は、2030年5%、50年63%に引き上げられる。ジェット燃料への課税案もあり、航空運賃の値上げにつながりそうなだけに、これも議論を呼ぶだろう。航空機での水素利用もこれから進むと考えられているが、EUでは既に鉄道部門での水素利用が進んでいる。
電化されていない鉄道路線の多くではディーゼル車が利用されCO2が排出されるが、トンネル、橋梁などにより架線を張ることが困難な区間では電化による脱炭素が難しい。仮に架線が可能でも電化のための投資額は巨額になる。非電化の鉄道路線は、ドイツでは39%、英国では62%を占めている。脱炭素の方法の一つは、自動車と同じく蓄電池を搭載することだが、電池重量の問題から走行距離が長い区間では利用が難しい。
水素を利用する燃料電池であれば、重量、走行距離の問題を解決することが可能と欧州主要国は考え、燃料電池列車の検討を開始している。ドイツでは、2018年9月仏アルストム製燃料電池列車を123キロメートルの区間で導入し、走行試験を続けている。延べ走行距離は20万キロに近づいている。
英国、オーストリアなどでも試験走行が行われていたが、昨年11月にイタリアの鉄道会社がアルストム製燃料電池列車6編成を発注し、今年4月にフランスの鉄道会社がアルストム製の電気・燃料電池対応のハイブリッド型列車12編成を発注した。この発注額は1億9000万ユーロ(250億円)。アルストムによると、欧州では5000編成以上のディーゼル列車が走行しており、脱炭素のため2050年までには多くが燃料電池に置き換わることになる。市場規模は数兆円になるとの見通しもある。
脱炭素を巡る競争の外にいる日本
輸送部門の温暖化対策に象徴される非炭素電源利用の電動化、水素、バイオ燃料は、脱炭素に向けて活用される技術の中心になる。そう考える主要国政府は、再エネ、原子力、バイオ燃料、水素利用に力を入れている。特に水素については、ドイツもフランスも水素世界一になると、エネルギー関係大臣が宣言するほどだ。さらに、韓国も水素利用、燃料電池車で世界一を狙い、やはり世界一の水素大国になると文大統領が述べている。
昨年10月末、現代自動車のFCV 国内1万台販売達成日に現代自動車の拠点蔚山を訪問した文大統領は、自動車の未来についてスピーチを行ったが、その中で様々な数字と目標に触れている。
・韓国が世界で初めてFCV販売1万台を達成した(図-5)
・2025年までにグリーンモビリティのため、20兆ウォン(約2兆円)以上を投資する
・25年までに113万台のEVと20万台のFCVを生産
・25年までに46万台のEVと7万台のFCVを輸出
・30年までに世界一競争力のある自動車生産国になる
・公的機関が購入する自動車はEVあるいはFCVに限定する
・タクシー、バスなどの購入に補助、減税制度を導入する
現代自動車はトヨタ自動車よりも早くFCVの量産車を2013年に販売開始している。その後2018年にFCVネッソを発売した。現代自動車の資料によると、2019年と2020年1-9月の販売台数は、ネッソ9700台、ミライ3213台だ。今年1月から5月の両車の販売実績を米国市場で見ると、モデルチェンジを行ったミライが販売を大きく伸ばしており、ミライ1488台、ネッソ112台となっている。
主要国は、どこも脱炭素をテコに新分野開拓に乗り出している。日本では、市場に任せるべき2030年の電源構成をどうするかの議論に関する報道を目にすることは多いが、政府の新分野の取り組みに関する話をあまり聞かない。むろん、政府が取り組んだからうまく行くわけではないが、具体的なプロジェクトの話が多い他国の取り組みとの比較では出遅れている印象を持たざるを得ない。予算が限定されているなかで、産業振興、雇用への効果が限定される洋上風力などの再エネ支援ではなく、雇用にも結び付く効果的な分野への投資を考えるべき時だ。
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