WEDGE REPORT

2021年2月26日

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齋藤 純 (さいとう・じゅん)

日本貿易振興機構(JETRO)アジア経済研究所地域研究センター中東研究グループ副主任研究員

2014年一橋大学博士(経済学)。2006年アジア経済研究所入所、UAE大学客員研究員(アブダビ)などを経て15年より現職。専門は中東経済、開発金融、企業金融。

ムハンマド皇太子(写真右上)が掲げる脱石油依存改革「ビジョン2030」は、コロナ禍により暗礁に乗り上げつつある (AP/AFLO)

 石油や天然ガスに経済を大きく依存する湾岸アラブ諸国(サウジアラビア、アラブ首長国連邦〈UAE〉、カタール、オマーン、クウェート、バーレーンの6カ国)は、原油価格の低迷、国際経済の減速、加えて新型コロナウイルス感染症の影響下で厳しい状況にあり、経済回復に向けての模索のただ中にある。

 湾岸アラブ諸国は2000年代以降の原油価格の高騰を背景に、経済開発を進め急速な経済発展を遂げてきた。03年には、サウジの実質国内総生産(GDP)成長率は11.2%、UAEは8.8%、クウェートは17.3%など高い数値を記録した。

 しかし、08年7月の原油価格(WTI価格)が1=147㌦で最高値を更新した後、16年2月には1=約26㌦まで下落、21年1月現在50㌦前後で低迷している。原油価格の下落により、湾岸アラブ諸国は米国のサブプライムローン問題やリーマンショックによる被害を埋め合わせられない中でコロナ禍に追い打ちをかけられた形で、20年の各国の実質GDP成長率は、サウジがマイナス(以下、▲)5.4%、UAEが▲6.6%、カタールが▲4.5%(国際通貨基金〈IMF〉の20年10月版世界経済見通し)と大きく減速することが予測されている。

 石油・天然ガスに収入を大きく依存する湾岸アラブ諸国だが、相対的に財政余力のあるカタールやUAE、限られた財政資源をインフラ開発や貧困対策に向けるクウェート、バーレーン、オマーン、そして同じく制限された財源を大規模な人口に振り分けざるを得ないサウジでは、低迷する原油価格と新型コロナの影響は大きく異なる。特に苦境にあるのが、サウジである。

「宿命的課題」の脱石油
前途多難のビジョン2030

 湾岸アラブ諸国は自らの経済が原油価格の変動に大きく左右される危険性を認識しており、長年にわたり経済開発を推し進めてきた。各国は石油発見前後から「五カ年計画」などの長期経済開発計画を実施しており、脱石油経済や経済多角化は常に重要な政策課題の一つであり続けた。

 直近では00年代に流入した潤沢なオイルマネーを背景に各国で新たな「経済開発ビジョン」を華々しく発表してきた。サウジの「ビジョン2030」(16年発表)をはじめとして、「UAEビジョン2021」(10年発表)、「カタール国家ビジョン2030」(08年発表)などがそれである。

 伝統的な「五カ年計画」などと比較すると、開発の重点はインフラ整備や工業化などから国民生活の向上にシフトしつつあるものの、脱石油経済と経済多角化は各国で共通する課題であり続けている。裏を返せば、このことは長年にわたり脱石油経済と経済多角化に取り組んできたにもかかわらず、その成果は不十分であり、依然として解消できない「宿命的課題」であることを示している。

 この「宿命的課題」は、脱石油経済と経済多角化を進める財源を、石油・天然ガスからの収入に頼らざるを得ないというジレンマから生じている。

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