バイデン政権の具体的な中東政策は、政権発足間もない現時点では未知数であるが、バイデン政権が対応しなければならない中東の諸問題は、米国の優先度から言うと、イランの諸問題、サウジアラビアとの関係、中東和平問題となろう。なお、アフガニスタン問題も米軍の撤退問題があるので優先度が高いが、欧米では、アフガニスタンは中東に含めない。
まず、イランについて。バイデン政権は、「イランが核合意の義務の遵守に完全に復帰すれば、アメリカも復帰する。」と言い、イラン側は、「一方的に制裁を課したのはアメリカなのだから、先にアメリカが制裁を解除するべきだ。」と主張しているが、イラン側は、アメリカの経済制裁に加えて新型コロナによる経済へのダメージが大きいので、いずれどこかで手を打つと考えられる。しかも、今年の6月のイランの大統領選挙で保守強硬派の大統領が誕生する可能性が高いが、そうなるとイランがどう出るか分らないので、バイデン政権側も、あまり、のんびり構えていられないであろう。ただし、イランについては、核問題のみならず、弾道ミサイルの開発問題と地域情勢への介入の問題がある。バイデン政権としては、制裁解除を梃子にこれらの問題にも手を付けざるを得ないであろう。
次に、サウジアラビアとの関係について。人権を重視する民主党の伝統立場からサウジアラビアに対するバイデン政権の風当たりは強くなろう。問題は、サウジアラビアは、ムハンマド皇太子の下で改革の最中であり、アメリカとの関係悪化により同国の改革が頓挫、不安定化を招く可能性も否定できない。サウジアラビアの不安定化は、サウジアラビアに原油輸入の40%近くを依存する日本としては無関心ではいられないが、シェール・オイルで世界最大の産油国となったアメリカにとってペルシャ湾の原油の重要性が低下していることが気になる。
イエメン内戦にサウジラビアとUAEが介入し続けていることは、同国に人道的な悲劇をもたらしており正当化できない。この両国は、武器弾薬をアメリカに依存しているので、武器禁輸は、イエメン内戦を終わらせる最短の方法であろう。しかし、この介入はサウジアラビアのムハンマド皇太子の面子の問題となっており、同皇太子の権力基盤に対するダメージとなる可能性がある。
最後に、中東和平問題の関係について。トランプ政権は、アラブ・イスラエル紛争を事実上放置したままでイスラエルとUAE、バーレーン、モロッコ、スーダンとの外交関係正常化を強引に進めた。イスラエルは、トランプ政権の期間中に取るべきものは取ったつもりであろうが、このような関係の正常化は真のアラブとイスラエルの和解には繋がらないであろう。しかし、この出来事の成否を見極める必要があり、当面、バイデン政権下で中東和平問題では進展が見られないということになろう。
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