州・地域ごとに異なる複雑なインドの飲酒規定
インド人口の80%超を占めるヒンズー教はマヌ法典で飲酒を五大罪と規定し、ヒンズーから派生したシーク教、ジャイナ教、仏教も同様である。ヒンズー教に次いで信徒が多いイスラム教では禁酒は言わずもがなである。筆者は合計4回、累計10カ月のインド体験を通じて“インドは飲酒に不寛容”な国柄であると考える。
インドは州ごとに法律や慣習法・慣例も異なるが、さらに州内でも地域により異なることもある。インド人に聞いてもインドの飲酒規定は判然としない。グジャラート州、ビハール州は禁酒州であるが外国人は自室で飲むことは認められている。ヒンズー教の聖地のある行政区域も禁酒だ。ヨガ・瞑想の聖地リシュケーシュは完全な禁酒かつ肉食禁止地域であった。またラジャスターン州の小さな町は町外れにある湖が何かの聖地らしく町全体が禁酒地区であった。ちなみにガンジス川の沐浴で有名なヒンズー教の最高の聖地であるバラナシでは飲酒可能。
また曜日により酒類販売を禁じたりする地域や祭礼の日に酒類販売禁止する州もあるので飲兵衛はカレンダーに注意が必要だ。
インドの田舎町の酒屋は町外れでひっそりと営業

インドでは酒類を販売している店は全て行政の認可を受けている。例えばインドネシアのバリ島の雑貨屋では無印のペットボトルに入った焼酎を売っているがインドでは正規の政府公認の酒屋でしか購入できない。
インドの大都市や有名観光地では酒屋は目立つ看板を掲げ堂々と営業しているように見える。やや違和感があるのがカウンターを鉄格子で仕切り鉄格子の小さな窓口でお金を渡し商品を受け取るスタイルの店が半数以上であることだろうか。伝統的に金目の商品を扱う商店のスタイルだ。
他方で小さな町や田舎では町はずれに一軒だけ酒屋があるだけだ。これは恐らく酒類販売免許の認可料・更新料といった税金が重いので人口が少ない地域では商売が成り立たないからではないか。こうした事情からしばしばホステルから30分以上歩いて買い出しに行くことになる。
分かりづらく目立たぬ場所にひっそりと営業しているので何度も地元の人間に聞かないと通り過ぎてしまうこともある。地方ではヒンズー教やイスラム教の寺院や地域共同体の影響力が強く行政側も配慮して営業場所の認可を下ろしていると聞いた。看板もなく間口は狭く鉄格子の奥は薄暗いのでボトルのブランド名が読み取れないほどである。酒を買うことが後ろめたい行為のように思えてくる。
インド南端のカンニャークマリの公認酒屋は通りからは全く見えずコンクリ塀で囲まれ入口が分からなかった。酔っ払いのオジサンに案内されて、人がすれ違いできないほど狭くてゴミの散らかった路地を入ると5~6人が鉄格子の前に並んでいた。一緒に買いに来たフランス人カップルは刑務所の売店(プリズンショップ)みたいと大笑いした。
同じブランドでも地域により値段が大きく異なる

インドで困惑するのは州により酒税が異なり同じブランドでも値段が大きく変わることである。例えばナショナルブランドのビール、“キングフィッシャー”赤ラベル大瓶で比較してみる。
- ムンバイ=194ルピー
- ゴア=130ルピー
- ハンピ=300ルピー
- マイソール=200ルピー
- コチ=140ルピー。
1ルピー=1円90銭なのでゴアでは250円、ハンピでは570円となる。総じて日本より高い。
モディ政権による外資導入によりハイネケン、カールスバーグ、バドワイザーなどの現地生産ビールも全国的に販売されており、面白いことにキングフィッシャーより安いケースが多々ある。
リカー類はラム酒の有名ナショナルブランド、“オールド・モンク”760ml瓶で比較すると地域格差が更に大きい。
- ゴア=220ルピー
- マイソール=1200ルピー
- アレッピー=1160ルピー
州内限定販売のご当地ブランドはお手頃価格!!
インドでは地方の税収確保の目的から州内限定販売のご当地ブランドのビールやラム酒などがある。ゴアのご当地ラム酒は1L瓶で160ルピー。ケララ州専売ラム酒は1L瓶で460ルピー。ビールも州内専売ブランドはキングフィッシャーより30~40%割安であった。
インドのケララ州は“飲酒に寛容”であるが、公認酒屋には2つのカテゴリーがあった。外国人向けとローカル向けである。どちらの店でも金を払えば外国人でもインド人でも買えるが販売しているブランドが異なる。“外人用公認酒屋”では輸入物、高級国産ナショナルブランドであり冷蔵庫で冷やしたビールを提供する。他方でローカル用公認酒屋では低級ブランドや州内専売ブランドを販売しているが冷蔵庫はなく州内専売ビール“KALS”は常温である。
しかも外国人用とローカル用の公認酒屋はどこでも同じ場所で営業している。アレッピーではビルの2階に外国人用、同じビルの裏の半地下の隠れた場所にローカル用があった。バルカーラではビルの1階に外国人用、ビルの外階段を上がった3階にローカル用があった。どうやら同じオーナーが両方を経営しているようなのだが、どうして別々に営業しているのか理由を聞いても理解できなかった。