2025年3月23日(日)

古希バックパッカー海外放浪記

2025年2月9日

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愛国青年が熱弁「イスラエル国家の生存には領土拡大が不可欠」

フォート・コチのユダヤ人街の細い脇道の奥にユダヤ教会(シナゴーグ)はあった

 承前。兵役を終えたばかりのロイ君は、国連そして国際社会が不法占拠であると非難しているヨルダン西岸へのイスラエル領土拡大を公然と主張した。筆者は咄嗟にナチス・ドイツを率いたヒットラーが唱えた「東方生存権構想」(ゲルマン民族の生存のためには東欧・ロシアへの領土拡大が必要)を思い出した。

≪参考≫イスラエルの人口推移(出典:国連)建国時の1948年:80万人、1968年:280万人、1988年:440万人、2008年:730万人、2018年:890万人、そして2023年:980万人。国連は今後も人口増加は継続し2050年には1300万人程度と予測。

 筆者が国連決議違反を指摘すると、ロイ君はヨルダン西岸のみならず、イスラエルが推進している占領地への入植(settlement)は合法的であると反論。よくロイ君の論旨が理解できなかったが、紀元前の古代ユダヤ人国家のヘブライ王国、ソロモン王国、ユダ王国、イスラエル王国などの版図がヨルダン西岸、ゴラン高原などを包含していたことから、現代のイスラエル国家は歴史的事実に照らして占領地域の主権を主張できるというような論理であったように思われる。

 まるで習近平が清朝時代の最大版図を本来の中国領土であると主張しているのと変わらない。いずれにせよイスラエルの中でロイ君が主張するような言説が少なからずあるのだろうと想像した。

パレスチナには領土と市民を統治する正当な自治政府が存在しない

 ロイ君のパレスチナ批判は痛烈だ。曰く「ガザ地区を実行支配するハマスはテロ集団である。テロ集団が暴力で行政権を乗っ取っているのがガザ地区の実態だ」

 ヨルダン川西岸のパレスチナ自治政府は、腐敗してパレスチナ人の支持を失って行政組織として機能していない。名目上の大統領で自治政府議長のアッバースは失脚を恐れて選挙を拒否して居座っている。何度もイスラエルと米国はパレスチナ側に正常化のための領土交渉を呼びかけるが、パレスチナ側は領土を失うことを恐れて交渉を拒否している。

 正当で実体のある自治政府が存在しないので、イスラエル軍が占領として治安維持にあたり、安定的かつ継続的に統治している。西岸の占領地域については、少なくとも自治政府は国際法上の領土主権を主張できないとロイ君は断言した。現実としてイスラエル占領地域に多数のパレスチナ人が安定的に居住して就業しており、イスラエルの実効支配は正当化できるとロイ君は補足した。

イスラエルのガザ侵攻は最大限の人道的配慮の下で実施“虐殺はデマ”

 ガザ侵攻では攻撃開始前に十分な時間的余裕をもって攻撃対象地域一帯の市民に避難勧告をしている。ところがハマスは学校や病院に隠れ民間人を盾にしている。そのため子供を含む民間人が戦闘の巻き添えになり犠牲が増えている。

 1年数カ月での犠牲者数がパレスチナ4万人と西側で報道されているが、パレスチナの犠牲者の数字は国連の出先機関(ハマスの関係者も在籍している)と、ハマスが出している数字であり信憑性に乏しい。西側メディアはハマスのプロパガンダに乗って“イスラエル軍のパレスチナ市民虐殺”と偏向報道しているのは残念とロイ君は悔しがった。

 さらにレバノン南部のヒスボラとの戦闘ではイスラエルは事前に地域住民30万人を退避させて民間人の犠牲を最小限に抑えたことを西側メディアは伝えていないと補足した。

フォート・コチのユダヤ教会の礼拝堂。往時にユダヤ人街の豪商から寄贈された数々の宝飾品で飾られている

ロイ君の意外な一面「素朴な愛国的心情」

 ロイ君からは屈強な元兵士の外見の半面でイスラエルの実情を外国人である筆者に必死で訴えようとする真っすぐな想いも感じた。筆者は最後にイスラエル人に出会うと必ず尋ねる質問をした。

「あなたは杉原千畝という名前の日本人外交官がナチス・ドイツを逃れた多数のユダヤ人の命を救ったことを知っていますか」と聞くと案の定いぶかしそうな顔をして否定した。筆者が過去会ったイスラエル人は全員が映画『シンドラーのリスト』のオスカー・シンドラーの名前を知っていたが、杉原千畝を知っているイスラエル人に会ったことがない。杉原千畝の事績を伝えると顔を真っ赤にして感激した。

 そして「世界中から集まったユダヤ人が必死の思いでイスラエルを地上の天国にしようと努力しています」と言った。例えば先進医療では世界のトップテンの病院の半数がイスラエルにあると胸を張った。21歳の愛国青年の純真な素顔を垣間見た気がした。


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